
はじめに
朝7時15分、まだ誰もいない職員室。
お茶を入れて席につき、連絡メモに目を通す。
中学校の担任の1日は、案外こんなふうに静かに始まります。
ところが、そこから先は目まぐるしいですよね。
朝の会、授業、休み時間、給食、掃除、帰りの会、部活、会議。
気がつけば夜になっていて、「今日、自分は何をしていたんだろう」と思った日はありませんか。
私は14年間、中学校の担任をしてきました。
初任のころは、出勤してすぐ教室へ向かい、全部を同時に、全力でやろうとして、よく空回りしていました。
変わったのは、場面ごとに「最初の一手」を決めるようになってからです。
この記事では、出勤から退勤までを時間の順に、9つの場面でたどります。
時刻は学校によってちがいますので、目安として読んでください。
大切なのは時刻よりも、場面の順番と、それぞれの最初の一手です。
- 中学校の担任の1日を、朝から退勤まで時間の順に見通せる
- 朝・日中・放課後の9つの場面で、最初に何から手をつけるか
- 空き時間や退勤前の短い時間を、明日の自分のために使うコツ
担任の1日・3つの時間帯と9つの場面
担任の1日は、大きく朝・日中・放課後の3つの時間帯に分けられます。
朝は生徒が来る前に整える時間、日中は授業の外にも担任の仕事がある時間、放課後は明日につなげて終える時間です。
それぞれに3つずつ、合わせて9つの場面があり、場面ごとに「最初の一手」を決めておくと、1日の見通しがぐっと良くなります。
全部を完璧にこなす必要はありません。
まずは、いまの自分がいちばん苦しい場面を探しながら読み進めてください。
- ポイント1:朝は、生徒より先に整える:山場を決める・顔を見る・朝の会を型で回す。
- ポイント2:日中は、授業の外にも仕事がある:休み時間は廊下、空き時間は電話が先、給食と掃除は観察。
- ポイント3:放課後は、明日につなげて終える:帰りの会は3分、放課後は順番で、退勤前に引き継ぐ。
ポイント1:朝の出勤から朝の会まで、生徒より先に整える
朝の30分で、その日の落ち着きはほとんど決まります。
朝は、生徒が来る前に自分を整え、来た直後に顔を見る時間です。
出勤から朝の会までの3つの場面で、それぞれ最初の一手を決めておきましょう。
朝の出勤から朝の会まで、生徒より先に整えるのポイントを紹介します
出勤後、最初に「今日の山場」を決める理由
出勤したら、教室へ向かう前に、まず机で連絡に目を通します。
見るのは、欠席・遅刻・早退の連絡と、今日の行事や面談の予定です。
そのうえで「今日の山場はどこか」を、ひとつだけ決めます。
山場がわかっていると、ほかの時間を落ち着いて過ごせるからです。
全部に同じ力を入れようとすると、肝心の場面でエネルギーが残っていません。
山場が決まっていれば、急な呼び出しが入っても、立て直す場所がわかります。
7時15分の職員室は、そのための静かな時間です。
ほんの3分のこの作業が、1日の支えになります。
初任のころ、保護者からの遅刻の連絡を見落としたまま、登校してきた本人に「なんで遅れたの」と聞いてしまったことがあります。
本人は黙り込み、朝の空気が重くなりました。
それ以来、連絡を読む前に教室へ行くのはやめました。
連絡の要点を付せんに書いて机の真ん中に置くだけでも、見落としはかなり減ります。
山場の付せんを1枚そえておけば、午後に慌てることも減っていきます。
朝は「話す」より「見る」を優先する理由
8時前後に、昇降口か教室で、登校してくる生徒をひとりずつ見ます。
あいさつの声の大きさ、歩く速さ、荷物の持ち方、友達との距離。
話しかけなくても、見ているだけでその日の調子は少しわかります。
朝のうちに「いつもと違う」に気づけると、その日の対応が大きく変わります。
この時間は、説明することより、見ることを優先してください。
たとえば、前の日に友達とぎくしゃくしていた子が、今日は少し早く来て自分の席でうつむいている。
そんな小さな変化は、見ていなければ気づけません。
見たことは、あとで必ず役に立ちます。
- 声:あいさつがいつもより小さくなっていないか。
- 足取り:登校の歩き方が重くなっていないか。
- 持ち物:荷物の整え方や表情に、変化がないか。
声をかけるなら、ひとことで足ります。
「おはよう。今日はどんな朝だった?」
質問の形にすると、答えたくなければ「ふつう」で済ませられます。
気になる様子の子には、朝の会のあとにもう一度、自然に近づきます。
その場で理由を聞き出そうとしないことが、いちばんのコツです。
無理に聞かなくても、見ていることは相手に伝わります。
朝の会を型で回すと、先生に余裕が残る理由
朝の会は、順番を決めて5分で回します。
あいさつ、健康観察、連絡、今日の予定、ひとこと。
この順番を毎朝同じにしておくと、考えなくても進められます。
毎朝その場で内容を考えると、先生の頭がそこで疲れてしまいます。
型に任せれば、先生は進行より、生徒の様子を見ることに力を使えます。
決まった流れがあると、生徒のほうも見通しがもてて、朝から落ち着いて座っていられます。
型は、先生にも生徒にも余裕をつくるための道具です。
健康観察のときは、名前を呼んで返事を聞くだけでなく、顔も見ます。
返事の声がいつもと違う子がいたら、その場では何も言わず、メモだけ残します。
連絡は、黒板に書いてから読み上げると、聞き逃す子が減ります。
5分を超えそうな日は、ひとことを削ってでも、時間を守ります。
1時間目の授業の先生に、気持ちよくバトンを渡せるからです。
朝の会の長さをそろえることが、1時間目の落ち着きにつながります。
ポイント2:休み時間・空き時間・給食は、授業の外の担任の仕事
授業が終わったら担任の仕事が終わり、ではありません。
日中は、授業の外にこそ、担任にしかできない仕事があります。
休み時間、空き時間、給食と掃除。この3つの場面にも、最初の一手を決めておきましょう。
休み時間・空き時間・給食は、授業の外の担任の仕事のポイントを紹介します
休み時間が「担任の仕事場」になる理由
授業と授業の間の短い休み時間は、できるだけ廊下に出ます。
職員室に戻ったり、次の授業の準備に走ったりしたくなる時間です。
でも、教室の外から生徒を見ると、授業中には見えない表情や関わり方に気づけます。
誰と誰が一緒にいるか、ひとりで座っている子はいないか。
休み時間は、担任がいちばん多くの情報を集められる時間です。
たとえば、移動教室の前に廊下で待っていると、次の教室へ向かう生徒の足取りや、誰と並んで歩いているかが自然に目に入ります。
廊下に立つだけで、それは始まります。
廊下に出たら、近くの生徒にひとこと声をかけます。
「さっきの授業、どうだった?」
授業の感想は答えやすく、話すきっかけにもなります。
毎回は無理でも、1日に1回、廊下に立つ時間を決めるだけで続けやすくなります。
忙しい日は、階段の踊り場など、通り道に立つだけでもかまいません。
先生が見ているという安心感が、教室の空気を整えていきます。
空き時間は「先に片づける順番」で決まる理由
空き時間が取れたら、最初に何をするかを決めておきます。
私は、保護者への電話や連絡帳の返事を先にしています。
採点や教材づくりは、そのあとです。
人とのやり取りは、後回しにするほど気が重くなり、夕方にのしかかってくるからです。
反対に、採点は自分のペースで進められるので、あとに回しても崩れにくい仕事です。
順番を決めておけば、迷う時間もなくなります。
空き時間は、たいてい20分から50分ほどしかありません。
その短い時間を、どの仕事から始めるかで使い切れるかが決まります。
電話をかけるときは、切り出しの言葉を先に決めておくと、気持ちが楽になります。
「お世話になっております。担任の○○です。今、少しお時間よろしいでしょうか」
名乗って、都合を聞いて、用件の向きを先に伝える。この3つだけで、電話の空気は大きく変わります。
電話の前に、伝えたいことを2行だけメモしておくのもおすすめです。
空き時間が少ない日ほど、この順番に助けられます。
給食と掃除が「観察の時間」になる理由
給食と掃除は、席に座らず、みんなが動く時間です。
だからこそ、教室で目立たない子の様子が、いちばん見えやすくなります。
配膳の列に並ぶ順番、食べる量、掃除の場所の選び方。
授業中には見えない素の姿が、自然に出てきます。
担任はこの時間、ただ立っているのではなく、とても大切な観察をしています。
私は、昼に食欲がなくなった生徒に気づいたことで、朝から続いていた悩みを早めに聞けたことがあります。
見ておくポイントは、決まっています。
- 食べる量:急に減っていないか。残す日が続いていないか。
- ひとりの時間:黙々と掃除する子、誰とも組まない子はいないか。
- 先に動く子:さりげなく手伝う子を見つけて、あとで認める。
見つけたら、その場では大きく扱わず、ひとことだけ声をかけます。
「その運び方、助かるよ」
手伝っていた子には、あとで学級通信や帰りの会で、さりげなく紹介します。
気になる子の様子は、メモに一行だけ残しておくと、面談のときに役立ちます。
給食と掃除の時間を、ただ過ぎる時間から、見る時間に変えてみてください。
それだけで、午後の指導が変わります。
ポイント3:帰りの会から退勤まで、明日につなげて終える
放課後は、部活、会議、生徒対応と、予定が重なりやすい時間帯です。
だからこそ、終わり方を決めておくと、明日の朝がずっと楽になります。
帰りの会、放課後、退勤前の3つの場面を見ていきましょう。
帰りの会から退勤まで、明日につなげて終えるのポイントを紹介します
帰りの会は3分で終えるほうがうまくいく理由
帰りの会は、3分で終えるつもりで組み立てます。
内容は、明日の連絡と、今日のよかったことをひとつだけ。
長く話すほど、生徒の気持ちは帰り支度へ向かい、先生の話は入らなくなります。
短く終えれば、先生は笑顔で送り出す余裕を残せます。
最後の印象がよい日は、翌朝の空気もよくなります。
私は昔、帰りの会で毎日10分近く話してしまい、生徒の顔が少しずつ下を向いていくのを見て、長さの問題に気づきました。
終わり方こそ、明日の始まりです。
- 連絡:あしたの予定と持ち物を、黒板を指しながら伝える。
- ひとこと:今日のよかったことを、ひとつだけ事実で伝える。
- 見送り:教室の出口で、ひとりずつ顔を見て送り出す。
「今日のよかったことを、ひとつだけ言うね」と前置きして話すと、短くても残る話になります。
誰かを名指しするときは、事実だけを伝え、点数や順位の話にはしません。
たとえば「掃除で、黙って机を運んでくれた人がいました」のように、名前を出さずに伝える方法もあります。
反省点を話したいときは、次の日の朝に回します。
帰りの会は、明日に持ち越したくない話を、軽く手放す時間でもあります。
放課後は「動く順番」を決めておくと迷わない理由
放課後は、生徒の相談や呼び出し、部活、会議、保護者対応が一度に押し寄せます。
順番はこう決めておくと、迷いません。
1番は生徒の対応、2番は時刻が決まっている部活や会議、3番は自分の仕事です。
生徒は、先生に声をかけるのに勇気を使っています。
その場で後回しにすると、次はもう来てくれないこともあります。
3分話を聞くだけで、その子の1週間が変わることもあります。
自分の仕事は、そのあとでも間に合います。
だから生徒を、いちばん先にします。
部活や会議の時刻は、紙に書いて机の見えるところに貼っておきます。
頭の中だけで覚えていると、集中している間に時間が過ぎてしまうからです。
会議が重なる日は、前日の退勤前に、翌日の順番を一行メモにしておきます。
それでも間に合わない日は、同じ学年の先生に早めに相談します。
ひとりで全部を抱えず、頼る場面を決めておくことも、放課後の最初の一手です。
退勤前の15分が、明日の朝を決める理由
退勤前に、15分だけ「あしたの自分」に仕事を渡す時間をつくります。
明日の朝いちばんにやることを、一行メモに書いて、机の真ん中に置きます。
朝の7時15分に、迷わず動けるようにするためです。
書き出しておくと、頭の中の「やり残し」も軽くなり、帰り道に仕事を引きずりにくくなります。
私は一時期、帰ってからも明日の段取りが頭を離れず、眠りが浅くなったことがありました。
メモを机に置いて帰るようにしてから、それがずいぶん減りました。
夜の自分が、朝の自分を助けるイメージです。
メモを書いたら、机の上を片づけます。
書類の山を全部整理する必要はありません。
明日使うものだけを、手前にまとめれば足ります。
最後に、教室の電気を消す前に、もう一度だけ教室を見まわします。
机の並びや黒板を見ると、「今日もいちにち、終わった」と気持ちが切り替わります。
この15分があるかないかで、翌朝の気持ちは大きく変わります。
明日の確認リスト
ここまで読んで、「全部やるのは無理だ」と感じた方もいるかもしれません。
大丈夫です。1日の中で、いまの自分がいちばんつらい場面をひとつ選んで、最初の一手だけ試してください。
明日の教室で、その日のうちに確かめられることだけを、リストにしました。
できたかどうかを採点する必要はありません。
やってみて、どう感じたかを見るだけで足ります。
- 7:15:連絡を読んで、今日の山場を付せんに一つ書く。
- 8:00:登校してくる生徒の顔を、ひとりずつ見る。
- 休み時間:次の授業の前に、廊下に1回だけ立つ。
- 空き時間:電話や返事を、採点より先に済ませる。
- 退勤前:あしたの朝の一手を、一行メモにして帰る。
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よくある質問
空き時間が少なくて、電話も採点も終わらないときはどうしますか
電話だけを先に済ませて、採点は全部を終わらせようとしない日を決めるのがおすすめです。
空き時間が少ない日は、全部を片づけることを目標にしないでください。
人とのやり取りを先に済ませれば、夕方に気が重くなることがありません。
採点は、量が多い日は、今日の分と明日の分に分けてかまいません。
終わらない日は、同じ学年の先生に相談し、授業準備を分け合う方法もあります。
ひとりで抱え込まないことも、仕事の工夫のひとつです。
空き時間の短さは、先生の段取りの問題ではなく、仕組みの問題であることも多いからです。
朝の会や帰りの会を短くすると、冷たい印象になりませんか
短くしても、冷たくはなりません。
生徒が気にするのは、長さより、先生が自分を見てくれているかどうかです。
5分の朝の会でも、名前を呼んで顔を見れば、温かさはしっかり伝わります。
むしろ、だらだら長い会のほうが、先生の疲れが見えて、空気が重くなりがちです。
短く終えた分の時間は、休み時間に廊下へ出て、ひとりずつ声をかけることに使ってみてください。
会の長さよりも、会の前後に生徒と目を合わせる回数のほうが、関係づくりには効いてきます。
部活や会議が重なって、退勤前の15分が取れない日はどうしますか
15分が取れない日は、1分で足ります。
あしたの朝いちばんにやることを、付せんに一行書いて、机の真ん中に置くだけです。
これだけで、翌朝の7時15分は、迷わず動き出せます。
書く内容は「保護者に電話」「提出物の確認」など、短い言葉でかまいません。
毎日15分を守ることより、毎日1分を続けるほうが、長い目で見て力になります。
取れない日があっても、自分を責めないでください。
翌朝に連絡を読むとき、前日のメモが一行あるだけで、気持ちの立ち上がりがまったくちがいます。
おわりに
担任の1日は、目まぐるしく見えますが、場面ごとに区切ると、手をつける順番が見えてきます。
朝は山場を決めて、顔を見る。日中は廊下に出て、電話を先にして、給食と掃除で観察する。放課後は3分で終えて、順番で動いて、あしたに渡す。
この9つの最初の一手を、全部やる必要はありません。
いまのあなたがいちばん苦しい場面をひとつ選んで、明日、試してみてください。
それが、1日をあなたのペースに取り戻す、最初の一歩になります。
ご視聴ありがとうございました。
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