
はじめに
子ども同士のトラブルが起きて、ふたりを呼んで話を聞いた。
それなのに、聞き終わったあとのほうが空気が悪くなっていた。
そんな経験はありませんか。
夏休みをはさむと、子どもの関係は静かに動きます。
仲がよかった組み合わせが入れかわり、教室の空気も少し変わります。
だから二学期の初めは、小さな言い合いが表に出やすい時期なんです。
そして、その最初の聞き手になるのは、たいてい担任のあなたです。
ここで多くの先生がしてしまうのが、どっちが悪いのかを先に決めようとすることです。
けれど、聞き取りがこじれる原因は、先生の力量ではありません。
ほとんどが、聞く順番の問題なんです。
この記事では、こじれない聞き取りの3つの手順をお伝えします。
特別な話術はいりません。
順番を変えるだけで、話の着地の仕方が変わりますよ。
こじれない聞き取り3つの手順
聞き取りのゴールは、どっちが悪いかを決めることではありません。
このふたりが、明日も同じ教室で過ごせる形をつくることです。
そのために必要なのが、分ける・たどる・戻す、という3つの手順です。
まず落ち着ける状態に分けて、次に時間の順に事実をたどり、最後に本人の言葉で次を決めて教室へ戻す。
この順番でやると、話がこじれにくくなり、同じトラブルもくり返されにくくなります。
- ポイント1:分ける:その場で裁かず、別々に落ち着いて聞く形をつくる。
- ポイント2:たどる:「なぜ」ではなく「何があったか」を時間の順に聞く。
- ポイント3:戻す:謝罪をゴールにせず、次の一手を本人が決める。
ポイント1:分ける
トラブルを見つけた瞬間は、先生もいちばん急いでいます。
早く終わらせたい、この時間で解決したい、と思うのが自然です。
けれど、急いで並べて聞くほど、聞き取りはこじれていきます。
最初にやることは、白黒をつけることではなく、ふたりを切りはなすことです。
分けるのポイントを紹介します
なぜ最初に「別々」にするのか
トラブルを見つけた瞬間、その場でふたりを並べて話を聞きたくなりますよね。
でも、興奮しているときに出てくる言葉は、その子の本当の気持ちとずれています。
相手が目の前にいる状況では、子どもは本音ではなく、負けないための言葉を選んでしまうからです。
まず座る場所を分けて、呼吸を整える時間を先に渡してください。
ここを飛ばして同時に聞き始めると、あとから丁寧に聞き直しても、最初についた勝ち負けの空気が残り続けます。
分けるのは、どちらかを疑うためではありません。
ふたりとも、安心して思い出せる状態に戻すためです。
- 場所を分ける:別の部屋か、せめて背中が見えない距離に離す。
- 時間をそろえる:ふたりにかける時間を同じ長さにする。
- 待つ子に役割を:思い出しておいてね、と伝えて手持ちぶさたを防ぐ。
その場で裁かないという判断
先生が急いで白黒をつけようとするほど、聞き取りはこじれます。
子どもにとっていちばん怖いのは、話し終わる前に結論が決まってしまうことです。
先に裁いてしまうと、あとから出てきた事実を足しづらくなり、先生自身も引き返せなくなります。
休み時間の途中でも、いったん止めて、放課後に落ち着いて聞くと決めていいんです。
その判断は、逃げではなく段取りです。
今は結論を出さないよ、まず全部聞くよ、と伝えるだけで、子どもは話しても大丈夫だと分かります。
急がないことが、結局はいちばん早い解決につながります。
最初の一言が聞き取りの空気を決める
別々に座らせたら、聞き始める前に先生の立場を言葉にしてください。
これは叱るための時間ではないこと、あなたを助けたいから聞くこと。
この二つを最初に伝えるだけで、子どもの口の開き方が変わります。
メモを取るなら、忘れないために書くね、と理由も添えましょう。
黙って書かれると、子どもは証拠を集められていると感じてしまいます。
待っているほうの子には、深呼吸して思い出しておいてね、と役割を渡しておくと、置いていかれた気持ちになりません。
この一言があるかどうかで、同じ子でも話す量がまるで変わりますよ。
先生は味方だと分かれば、子どもは自分から話し始めます。
分けるという手順は、時間がかかるように見えて、実はいちばんの近道です。
落ち着いた状態から聞き始められれば、そのあとの話は驚くほどスムーズに進みます。
まずは切りはなす。
それだけを決めておいてください。
ポイント2:たどる
別々に座らせたら、次は聞き方の順番です。
ここでいちばん多いのが、なぜやったの、から始めてしまうことです。
「なぜ」から入ると、子どもは理由ではなく言い訳を探し始めます。
聞くのは、何があったか。
それを、朝からの時間の順にたどっていきます。
たどるのポイントを紹介します
「なぜ」から入ると本音が閉じる理由
なぜやったの、という問いは、聞いている先生の意図とは関係なく、責める言葉として子どもに届きます。
理由を聞かれたつもりの子は、事実ではなく言い訳を探し始めてしまうんです。
代わりに使ってほしいのが、何があったのか教えて、という聞き方です。
起きたことを並べるだけなら、子どもは答えられます。
そして事実が出そろってから、そのときどんな気持ちだった、と気持ちを聞いていく。
順番を入れかえるだけで、同じ子から出てくる話の量が驚くほど変わりますよ。
叱りたいわけではないのに、なぜという言葉だけが強く残ってしまうんです。
- なぜやったの→何があったか教えて:事実から入ると答えられる。
- どっちが先→朝からの順に教えて:時間でたどると記憶が出る。
- 本当なの→そのときどう思った:気持ちは事実のあとで聞く。
時間の順にたどると記憶がそろう
最後の場面だけを聞くと、たたいた、という結果だけが大きく見えてしまいます。
けれど多くのトラブルは、その前に小さなやりとりが積み重なっています。
朝からの流れを、時間の順にたどってみてください。
給食のとき、掃除のとき、と場面をたどるうちに、本人も忘れていた出来事を思い出します。
記憶は時間の順に並べると出てきやすく、話も自然に整理されます。
先生は口をはさまず、次はどうなったの、とだけ返していけば十分です。
時間をさかのぼるほど、その子なりの理由も見えてきます。
急がずに、一つずつ場面を確かめていってください。
同じ質問をそろえて公平さを保つ
ふたりには、同じ質問を同じ言い方で聞きます。
そろえて聞くと、話が重なる部分と、食いちがう部分がはっきり分かれます。
深く聞き直すのは、その食いちがったところだけで足ります。
すべてを追及する必要はありません。
メモには、子どもが言った言葉をそのまま書き、先生の推測は書かないでください。
あとで保護者に説明する場面になったとき、事実だけが並んだメモは、あなたを必ず守ってくれます。
かける時間の長さもそろえると、えこひいきの誤解を防げます。
同じように聞いてもらえたという感覚が、納得の土台になります。
そこも子どもは、よく見ているんです。
たどるという手順は、真実を暴くためのものではありません。
ふたりの記憶を、同じ土俵に並べるための作業です。
並べてしまえば、多くの食いちがいは、悪意ではなく見え方の差だったと分かりますよ。
ポイント3:戻す
話を聞き終えると、つい謝らせて終わりにしたくなります。
その場で頭を下げれば、解決したように見えるからです。
けれど、納得しないまま出た謝罪は、しこりになって残ります。
最後の手順は、ふたりを教室に戻すところまでを設計することです。
戻すのポイントを紹介します
謝罪をゴールにすると再発する理由
その場で頭を下げさせると、解決したように見えます。
でも、納得しないまま出た謝罪は、心の中に小さなしこりとして残ります。
そして数日後、べつの場面でべつの形になって出てくるんです。
謝罪は解決のための手段であって、目的ではありません。
謝りたいと本人が思えたときに、謝ればいいんです。
先生が用意するのは、謝らせる場面ではなく、次はこうしたいと本人が言える場面のほうです。
ここを取りちがえないだけで、同じ組み合わせのトラブルは確実に減っていきます。
見た目の解決より、本人の中で終わったかどうかを見てあげてください。
決めるのは本人という原則
次はどうする、を決めるのは、先生ではなく本人です。
先生が用意した約束は、その場では守ると言っても、数日で消えていきます。
自分の口から出た言葉なら、子どもは案外覚えているものです。
うまく言葉にできない子には、話しかけるのが難しいならまず目を合わせる、というように選択肢を二つ出して選ばせてあげてください。
決めた言葉は短くてかまいません。
先生も覚えておいて、できていた日にそっと価値づけます。
自分で決めて、認めてもらえた経験は、次のトラブルのときの支えになります。
先生は決めさせる人ではなく、選べるようにする人なんです。
教室に戻す前にやっておくこと
ふたりを教室に戻す前に、周りの子への説明をそろえておきます。
中身は話しません。
話は聞いたよ、もう大丈夫、この二つだけで、うわさは静まっていきます。
家庭への連絡は、子どもが家で話すより先に、担任から入れておくと安心です。
そして数日たってから、あのあとどう、とひとことだけ聞いてください。
この短い確認があるかどうかで、同じトラブルがくり返される回数がはっきり変わります。
手をかけるのは、聞き取りの日より、そのあとの数日のほうです。
その数日で、ふたりの距離は自然に戻っていきます。
戻すところまでが、聞き取りの一部だと考えてくださいね。
- 周りへの説明:中身は話さず「聞いたよ・もう大丈夫」でそろえる。
- 家庭への連絡:子どもが家で話す前に、担任から先に伝える。
- 数日後の確認:あのあとどう、とひとことだけ聞きに行く。
戻すという手順があるだけで、トラブルは終わったことになります。
終わったと分かるから、子どもは次の関係をつくり直せるんです。
裁く人ではなく、戻す人でいてあげてください。
おわりに
分ける、たどる、戻す。
この3つは、どれも話術ではなく順番の話です。
どっちが悪いかを決めなくても、トラブルは終わらせられます。
決めるのは勝ち負けではなく、明日の過ごし方のほうなんです。
明日からの一歩は一つだけで足ります。
呼ぶ前に、別々に聞くと決めておくこと。
それだけで、聞き取りの流れは変わりますよ。
ご視聴ありがとうございました。
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保護者への説明の仕方
子ども同士のトラブルを丁寧に聞き取っても、保護者への説明の仕方を誤ると、こじれが再燃してしまいます。落ち着いて伝えるための順番を紹介します。事実と対応を分けて伝えることが基本になります。

保護者への説明の仕方を紹介します
どちらが悪いかではなく、事実を時系列で伝える
保護者はどうしても「うちの子は悪くない」という前提で話を聞きがちです。
「良い悪い」ではなく、起きたことを時系列で淡々と伝えることに徹します。
時系列で事実を積み重ねることで、感情的な対立を避けやすくなります。
事実の伝え方一つで、その後の話し合いの空気が大きく変わります。

学校が行った対応も、必ずセットで伝える
事実だけを伝えて終わると、保護者は「それで学校は何をしたのか」と不安になります。
「その場でこう対応しました」と、学校側の対応まで必ずセットで伝えます。
対応まで伝えることで、保護者は学校への信頼を保ちやすくなります。
双方の保護者に、同じ順番で説明する
片方の保護者にだけ詳しく伝え、もう片方には簡単に済ませると、不公平感が生まれます。
同じ事実、同じ順番で、双方の保護者に丁寧に説明することを徹底します。
公平な伝え方が、学校全体への信頼を守ります。
同じ相手と繰り返しトラブルになる場合の対応
分ける・たどる・戻すの手順を重ねても、同じ相手と何度もトラブルになる関係もあります。そのときの見立てと対応を紹介します。

繰り返すトラブルへの対応を紹介します
毎回のトラブルではなく、関係性そのものを見る
一回一回のトラブルの内容だけを見ていると、根っこの関係性が見えてきません。
「この二人はどういう関係なんだろう」と、より大きな視点で観察してみます。
関係性そのものに目を向けることで、対症療法ではない対応が見えてきます。
- 関係性:個別の出来事より関係全体を見る。
- 距離:物理的な距離を一時的に調整する。
- 第三者:間に入れる人を探しておく。
物理的な距離を、一時的に調整する
席や班を一時的に離すことで、衝突の機会そのものを減らすことができます。
永続的な措置ではなく、「しばらくの間」という前提で伝えると、本人たちも受け入れやすくなります。
距離を置くことは、関係を諦めることではなく、落ち着くための時間を作ることです。

間に入れる第三者を、探しておく
担任だけでなく、両方から信頼されている生徒や他の先生が間に入れると、関係が動きやすくなります。
「誰か間に入れそうな人はいないか」と、普段から視野を広げておきます。
トラブルの記録の残し方
対応した内容は、あとで振り返れる形で記録しておくことが大切です。記録の残し方を紹介します。

トラブルの記録の残し方を紹介します
記録は、事実・対応・結果の三つに分けて書く
感想を交えずに、起きた事実、行った対応、その後の結果を分けて記録します。
この形式を決めておくことで、あとから読み返してもすぐに状況が分かります。
記録は、その日のうちに残す
時間が経つほど、記憶は曖昧になっていきます。
「その日のうちに」というルールを自分の中で決めておくと、記録の精度が保たれます。
記録は、必要な人だけが見られる形で保管する
記録には個人情報が含まれるため、保管場所や共有範囲には十分に気をつけます。
必要な人だけがアクセスできる形を徹底することが、生徒と保護者への責任です。











