
はじめに
体育祭や合唱コンクールが終わった翌週、振り返りの作文を集めて、がっくりした経験はありませんか。
「楽しかったです。次もがんばります。」の二行だけが、ずらりと並んでいる。
あの肩の落ち方は、担任をしたことがある先生なら、きっと覚えがあると思います。
私も、若いころはまったく同じでした。
行事のあとに「感想を書いてください」と原稿用紙を配って、返ってきたのは二行の山。
思わず「もっと書きなさい」と言ってしまい、教室の空気が重くなったこともあります。
でも、あとから気づいたんです。
書けないのは、子どもの文章力ややる気の問題ではありませんでした。
「感想」という問いが広すぎて、どこから書き始めればいいのか、手がかりがなかっただけだったんです。
この記事では、中学生が行事のあとに書き出せる「型」を三つ、例文九つといっしょに紹介します。
書く前の三分間の使い方と、提出されたあとの赤ペンの返し方まで、そのまま使える形でまとめました。
黒板に写して配るだけで、振り返りの質が変わります。
- 「楽しかった」で終わる作文が生まれる本当の理由
- そのまま黒板に写せる、書き出しの型3つと例文9つ
- 書く前の3分と、提出後に赤ペン一行で返す手順
振り返りの書き出し 3つの型と例文9つ
振り返りが二行で終わるのは、問いが広すぎるからです。
そこで、書き出しの型を三つに分けて渡します。
一つ目は、いちばん心に残った場面から書く型。二つ目は、始める前と今の自分を比べて書く型。三つ目は、助けてくれた人と次の一歩につなげて書く型です。
型ごとに例文が三つずつ、合わせて九つあります。
どれか一つ選ぶだけで、最初の三行が書けるようになります。
全部の型を使う必要はなく、学級の様子に合わせて選んでください。
- ポイント1:心に残った場面から書く:感想ではなく場面を選ばせる。
- ポイント2:始める前と今の自分を比べて書く:変化を前と後で並べる。
- ポイント3:助けてくれた人と次の一歩につなげて書く:感謝と約束で終える。
ポイント1:心に残った場面から書く
一つ目の型は、場面から書く型です。
「感想を書いて」と言われると何を書くか迷いますが、「いちばん心に残った場面を一つ選んで」と言われると、子どもは頭の中の映像をたどれます。
感想を求めるのをやめて、場面を選ばせる。
これだけで、書き出しで止まる子が減ります。
心に残った場面から書くのポイントを紹介します
なぜ「感想を書いて」では手が止まるのか
「感想を書いてください」という指示は、大人には簡単でも、中学生には範囲が広すぎます。
体育祭ひとつをとっても、準備、練習、当日、片づけと、思い出せる場面が多すぎて、どこから書けばいいのか決められません。
しかも本番の熱が冷めた翌週は、記憶も少しずつぼやけています。
迷っているうちに時間が過ぎて、いちばん無難な「楽しかったです」に落ち着いてしまいます。
これは怠けではなく、問いが広いときに起きる、ごく自然な反応なんです。
私が失敗した年は、原稿用紙を配って「10分で書いてね」と言っただけでした。
教室は静まり返り、鉛筆が動かないまま、時計だけが進んでいきました。
あとで何人かに聞くと、「書くことが多すぎて選べなかった」「変なことを書いたら恥ずかしい」という答えが返ってきました。
やる気がないのではなく、書き出しの一歩目が見つからなかっただけだったんです。
問いを変えるだけで、同じ子どもたちが書き始めると知ったのは、そのあとでした。
場面を選ばせると手が動く理由
「いちばん心に残った場面を一つ選んで」と聞かれると、子どもは頭の中で映像をさかのぼり始めます。
感想は気持ちの整理が必要ですが、場面は思い出すだけでいいので、負担がぐっと軽くなります。
場面が決まると、そのとき誰がいて、何が聞こえて、どう感じたかが、あとから自然に出てきます。
場面という具体的な手がかりがあるだけで、白い紙の怖さが薄れるんです。
書き出しは「いちばん心に残っているのは、〜の場面です」の一文で十分です。
最初の一文が書けた子は、そのまま三行、五行と続けていけます。
- 例文1:いちばん心に残っているのは、本番の直前に全員で円になった場面です。
- 例文2:当日の朝、教室に入ったときの空気が、いつもと違いました。
- 例文3:練習でいちばん大変だったのは、意見がぶつかった放課後です。
気をつけたいのは、例文の「〜」にあたる部分を、必ず子ども自身に埋めさせることです。
先生が場面を指定してしまうと、また感想文に逆戻りしてしまいます。
黒板に例文を三つ並べて、「この中から一つ選んで、自分の場面を入れてね」と言うだけで構いません。
三つのうちどれを選んだかで、その子が何に心を動かされたのかも、先生に伝わってきます。
書く前の3分で止まる子が減る理由
書き出しで止まる原因の多くは、頭の中が整理されないまま鉛筆を持たされていることです。
そこで、書く前に3分だけ、思い出す時間をつくります。
白紙に思い出した場面を三つ書き、いちばん心に残ったものに丸をつけて、隣の人と30秒だけ話します。
話すことで場面が細かく思い出され、「そういえば、あのとき」と材料が増えていきます。
短い時間でも、思い出す、選ぶ、話すの順を踏むだけで、頭が書く準備に切り替わります。
この3分は遠回りに見えますが、実際には書く時間が短くなり、提出の質も上がる近道です。
白紙に場面を書くときは、きれいな文章にしなくていいと伝えておきます。
「リレー、バトン」「朝練、遅刻」のように、単語だけのメモで構いません。
丸をつけたあとは、「その場面で誰が何をしていた?」と一言だけ問いかけます。
それだけで、書き出しの一文のあとに続く言葉が、驚くほど出てきます。
もし丸をつける場面に迷う子がいたら、「あとで友達に話したくなるのはどれ?」と聞いてあげてください。
話し合いの形で振り返らせたいときは、下の記事もあわせてどうぞ。
ポイント2:始める前と今の自分を比べて書く
二つ目の型は、自分の変化から書く型です。
結果が思うようにならなかった行事でも、始める前の自分と今の自分を比べれば、必ず変わったところが見つかります。
成長は、前と後を並べたときにはじめて見える。
この型は、前に出る役ではなかった子や、結果に納得していない子にも書けます。
始める前と今の自分を比べて書くのポイントを紹介します
成長は「前と後」を並べると見える
子どもにとって、成長は自分ではなかなか気づけないものです。
毎日少しずつ変わっているので、変化があまりに自然で、本人には「何も変わっていない」と感じられます。
そこで、始める前の自分と今の自分を、ひとつの文の中に並べて書かせます。
「最初の私は、〜と思っていました。でも今は、〜と思っています」という形です。
前と後が並ぶと、その間にあった変化が、はっきりと文字になって見えてきます。
行事の本番の結果とは関係なく、誰にでも必ず書ける形なのも、この型の強みです。
たとえば、「最初の私は、練習なんてめんどうだと思っていました。でも今は、毎朝の練習が少し楽しみです」と書いた子がいたとします。
この一文には、行事の中でその子の気持ちが動いた事実が、そのまま残っています。
先生はその変化を赤ペンで拾ってあげるだけで、本人の自信になります。
結果の順位が出た直後より、少し間を置いて気持ちが落ち着いたころに書かせるほうが、変化に気づきやすくなります。
目立たない子にも書ける理由
行事の作文は、前に出た子ほど書きやすく、裏方や控えめな子ほど書きにくいという偏りがあります。
リーダーや指揮者のように目立つ場面があれば、場面を選ぶだけで書けますが、役割は一人ひとり違うので、全員が同じように書けるわけではありません。
自分の変化から書く型は、役割の大きさに関係なく、誰もが自分の内側のことを書けます。
「いちばんがんばったのは、〜です」の空欄には、大きなことでなくても、朝の練習に出たことや、声を出したことが入ります。
小さな変化を書いていい、と先生が示すことが大切です。
- 例文4:最初の私は、練習なんてめんどうだと思っていました。
- 例文5:いちばんがんばったのは、朝の練習に毎日出たことです。
- 例文6:うまくいかなかったのは、本番で声がそろわなかったことです。
控えめな子の作文で、先生が見落としがちなのは、短い文の中にある気持ちの動きです。
「声を出すのが恥ずかしかったけれど、最後の練習では少し出せた」という一文は、その子にとって大きな一歩です。
赤ペンで「その一歩、先生は見ていたよ」と返すだけで、次の行事への意欲が変わります。
目立つ役の子には、役割以外の変化を問いかけてあげると、作文に深みが出ます。
反省文にしないための言い換え
うまくいかなかった行事の作文は、反省文になりやすいところが落とし穴です。
「悪かった点を書きなさい」と言われた子は、自分や仲間を責める文章を書いてしまい、書き終えたときにはかえって気持ちが沈んでいます。
そこで、問いを「そこから学んだこと」の形に言い換えます。
「うまくいかなかったのは〜でした。そこから〜を学びました」という二文を、セットで書かせるのです。
失敗を材料にして、次への力に変えられる子を、行事の振り返りで育てることができます。
最後によかったことを一つ足させると、読み終えたあとの後味も変わります。
ここで大切なのは、先生自身が「失敗を書いても責められない」という安心感を、日ごろから示しておくことです。
提出された作文に、失敗を書いたことをほめる一言を添えると、次から本音で書いてくれる子が増えます。
仲間の名前を挙げて責めている文章があったときは、その場で直さず、あとで一対一で話を聞いてあげてください。
ポイント3:助けてくれた人と次の一歩につなげて書く
三つ目の型は、人と次の一歩につなげて書く型です。
行事は、ひとりでは成り立ちません。助けてくれた人や、学級のよいところに目を向けさせると、文章に温かさが出ます。
最後に次の一歩を書いて終えると、作文が「ふり返り」から「次への約束」に変わります。
助けてくれた人と次の一歩につなげて書くのポイントを紹介します
行事は一人では成り立たないと気づかせる
行事の振り返りで、いちばん伝えたいことのひとつが、「自分は誰かに支えられていた」という気づきです。
練習のときに声をかけてくれた友達、片づけを手伝ってくれた仲間、見守ってくれた先生や保護者。
思い出してみると、感謝したい相手が必ず一人は見つかります。
「〜さんの行動に助けられました」と書かせると、子どもは自然に、その人の具体的な行動を思い出します。
ほめ言葉より、行動を書くほうが相手の心に届き、書く側の観察力も育ちます。
この一文は、書いた本人にも、読まれる相手にも、うれしい言葉になります。
名前を出すことに抵抗がある学級では、「名前は書かなくてもいいので、行動だけ書いてみよう」と伝えます。
それでも、書かれた行動を読めば、誰のことかは先生にはだいたいわかります。
学級通信に載せるときは、本人の了承をとったうえで、名前を伏せたまま紹介するのも一つの方法です。
読んだ子が、自分の行動が誰かの役に立っていたと知る機会になります。
学級のよさを言葉にする意味
学級のよさを言葉にする作業は、学級への所属感を育てるうえで、とても効果があります。
「このクラスのよさは、〜だと気づきました」という書き出しなら、子どもは行事の中で見つけた学級の姿を思い出して書きます。
失敗した人を責めなかったこと、声をそろえようと工夫したこと。
そんな具体的な姿を、クラス全員の作文から集めると、学級の文化が目に見える形で見えてきます。
先生が語るより、子ども自身が書いた言葉のほうが、学級の宝物として長く残ります。
書いた本人も、学級の一員として認められた気持ちになります。
- 例文7:友達が声をかけてくれたことに、助けられました。
- 例文8:このクラスのよさは、失敗した人を責めないところだと気づきました。
- 例文9:次の行事では、私は準備を先に手伝ってみたいです。
合唱コンクールのあとなど、結果の出た行事では、結果と学級のよさを分けて考えさせることがポイントです。
賞に届かなかった学級でも、「このクラスらしい歌声が出せた」という気づきは、必ず見つかります。
合唱コンクールの指導の流れは、時期ごとにまとめた記事もあるので、あわせて読んでみてください。
次の一歩で終える理由
作文の最後を「次の行事では、私は〜をやってみたいです」で終わらせると、振り返りが一度きりの作業で終わらなくなります。
書いた約束は、次の行事の前に読み返すことで、そのまま目標のたたき台になります。
大きな決意でなくても構いません。「準備を先に手伝う」「声を出す」のように、一つだけの小さな一歩で十分です。
一つに絞らせることで、実行できる確率が上がり、次の行事でやったかどうかも確かめやすくなります。
ふり返りを、次の行事の入り口にするという考え方です。
書かせた作文は、ファイルやノートにまとめて残しておくと、次の行事の前に配り直せます。
「前回、こう書いていたよね」と返すだけで、子どもは自分の言葉に背中を押されます。
先生が新しい目標を押しつけるより、自分で書いた約束のほうが、はるかに動きやすいものです。
提出されたときの赤ペンは全員に一行だけ。「この場面を選んだんだね、教えてくれてありがとう」で十分です。
明日の確認リスト
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
全部を一度にやろうとしなくて大丈夫です。
次に行事が終わったあと、教室でこれだけ確かめてみてください。
準備が三つと、返し方が一つ。どれも、その日のうちに確かめられることばかりです。
この記事の中で、いちばんやりやすいものを一つだけ選ぶのがコツです。
一つ試すだけで、返ってくる作文の中身が少し変わるはずです。
変わったところを見つけたら、赤ペンで一言添えてあげてください。
- 黒板:型1の例文三つを、先に黒板へ書いておく。
- 時間:書く前の3分を、時間割のどこでとるか決める。
- 声かけ:「悪かった点」を「学んだこと」と言い換えて伝える。
- 赤ペン:全員に一行だけ返す15分を、放課後にとっておく。
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よくある質問
書くのが苦手な子には、どこまで手伝っていいですか
例文の空欄をうめる形なら、手伝っても大丈夫です。
書くことが苦手な子は、白紙の状態がいちばん不安なので、書き出しの一文だけ先生が一緒に選んであげると、安心して書き進められます。
ただし、内容を先生が決めてしまうと、その子の作文ではなくなります。
「どの場面が頭に浮かぶ?」と聞いて、出てきた言葉をそのままメモに残してあげるくらいが、ちょうどいい手伝い方です。
書く量ではなく、本人の言葉が一つ入っていることを大切にしてください。
結果が悪かった行事でも、この型で書かせて大丈夫ですか
大丈夫です。むしろ、結果が悪かった行事ほど、この型が役に立ちます。
結果が出なかった日は、子どもたちの気持ちが沈んでいるので、「悪かった点」を聞かれると、さらに落ち込みます。
型2の「始める前と今の自分を比べる」なら、順位とは関係のない成長を書けますし、型3の「人と次の一歩」なら、仲間への気づきと前向きな約束で終われます。
悔しい気持ちは否定せずに受け止めたうえで、「悔しいほど本気だったね」と一言添えると、作文が気持ちの整理になります。
例文をそのまま写す子が出たら、どうしたらいいですか
最初は写す子が出てきて当然です。
書き出しの型は、あくまで一文目の手がかりであって、全文を写させるためのものではありません。
写している子には叱らずに、「このあと、どんなことがあった?」と続きを聞いてあげてください。
声に出して話しているうちに、その子だけの場面や言葉が出てきます。
次の行事のときには、例文を見なくても書き出せる子が増えていきます。型は、繰り返すうちに自分のものになっていきます。
最初の一回で完璧な作文を求めず、二回、三回と重ねていくつもりで見守ってあげてください。
おわりに
行事のあとの振り返りは、書く力を育てる絶好のチャンスです。
「楽しかった」で終わる作文は、子どもが怠けているのではなく、書き出しの型を知らないだけでした。
場面から書く。始める前と今の自分を比べて書く。助けてくれた人と次の一歩につなげて書く。
この三つの型と九つの例文を、黒板に写して渡すだけで、返ってくる作文は確実に変わります。
書く前に三分、返すのは赤ペン一行。
まずは次の行事のあとに、型1の例文だけでも試してみてください。
子どもたちが書いた言葉の中に、行事で育った成長がちゃんと残っているはずです。
ご視聴ありがとうございました。
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