
はじめに
職場体験の行き先を決める時期が近づくと、担任の先生にはひとつの心配が浮かびますよね。
人気の事業所に希望が集まって、くじで外れた子が不満をこぼしたらどうしよう、という心配です。
私も中学校の担任として、毎年この場面で頭を悩ませてきました。
実は、行き先決めがもめる原因は、事業所の人気そのものではありません。
決め方を先に決めないまま、希望を集め始めてしまうことがいちばんの原因です。
私自身、希望を紙に一枚だけ書かせて、人気の事業所に集中させてしまった年がありました。
外れた子が「もうどこでもいいです」とつぶやいたとき、順番を間違えていたと気づきました。
この記事では、希望調査の作り方から、割り振りの方法、発表の仕方まで、事業所の決め方・割り振り方を9つの手順にまとめました。
どれも特別な準備はいりません。
学年会にそのまま出して、順番に使える形にしてありますので、気になるところから読んでみてください。
- 人気の事業所に希望が集中しない、希望調査の紙の作り方
- くじと先生の調整を、どう使い分ければ納得されるか
- 余りそうな子を取り残さない声かけと発表の順番
事業所の決め方・3つの柱と9つの手順
9つの手順を、3つの柱に分けて紹介します。
1つ目の柱は、希望をどう集めるか。2つ目は、集めた希望をどう割り振るか。3つ目は、決め方がうまくいっても取り残される子を出さない仕組みです。
柱ごとに手順が3つずつ並んでいますので、今年の学年に足りないところだけ取り入れても大丈夫です。
順番に進めれば、希望調査の配布から発表まで、そのまま一つの流れになります。
- 柱1:希望の集め方:第三希望と理由、仕事の中身つき一覧、友達希望の欄(手順1〜3)。
- 柱2:割り振り方:重なった所だけ抽選、理由を読んだ調整、二段階の決定(手順4〜6)。
- 柱3:取り残さない仕組み:事前の声かけ、条件の先出し、発表と変更ルール(手順7〜9)。
ポイント1:職場体験の希望調査を第三希望と理由で集める(手順1〜3)
割り振りの難しさは、実は希望調査の紙を配る時点でほとんど決まります。
紙の作り方を変えるだけで、人気の事業所への集中はやわらぎます。
ここでは、第三希望と理由の欄、仕事の中身つきの一覧、友達希望の別欄という3つの手順を順に見ていきます。
希望調査の集め方のポイントを紹介します
なぜ第三希望まで理由つきで集めるのか
職場体験の希望調査で、第一希望だけを書かせる形はおすすめしません。
第一希望が外れたとき、その子の行き先を決める手がかりが何も残らないからです。
第三希望まで書いてもらえば、割り振りの候補が3つに広がります。
そこに理由を一行そえてもらうと、同じ事業所を選んだ子のあいだで、思いの強さを読み取れます。
理由は「人と話すのが好きだから」くらいの短さで十分です。
紙の欄を最初から三つ、理由の欄を一つ作っておくだけで、迷う場面が大きく減ります。
三つの希望を並べて見ると、その子の関心の幅も見えてきます。
理由の欄が空白のまま出てくる子もいます。
そのときは「好きなことや得意なことは何かな」と聞いて、出てきた言葉をそのまま一行にしてもらいます。
「犬が好き」「道案内をしたことがある」といった一言でも、割り振りでは立派な手がかりになります。
書けない子を責めず、一緒に一行を探す姿勢が、この手順をうまく回すコツです。
なぜ事業所名ではなく仕事の中身で選ばせるのか
事業所の名前だけを並べた一覧を配ると、子どもたちは名前を知っているところに希望を書きます。
コンビニや保育園、有名な店に人気が集まるのは、そのためです。
名前の横に、仕事の中身と一日の流れ、持ち物や服装を短く書き添えてみてください。
保育園なら「絵本の読み聞かせと外遊びの見守り」、店なら「品出しとレジ補助」といった具合です。
中身が見えると、希望は自然に散らばります。
名前ではなく仕事で選ぶ、という視点を一覧の形で教えてあげましょう。
知らなかった仕事に目が向くことも、職場体験の大きな学びです。
仕事の中身の情報は、事業所から事前にいただく資料や、昨年度のまとめを使えば十分です。
新しく調べる手間を増やす必要はありません。
昨年度の生徒の感想を一行だけ引用するのも効果があります。
「想像より体力を使った」「お客さんと話せて楽しかった」といった声は、先生の説明よりも子どもに届きます。
ただし、個人が特定できる形では載せないようにしましょう。
なぜ友達と一緒の希望を別の欄で聞くのか
中学生にとって、友達と同じ行き先に行きたい気持ちはごく自然なものです。
これを「ダメ」と禁止すると、本音は紙に書かれず、あとで不満になって出てきます。
そこで、希望の欄とは別に「一緒がいい人」を書く欄を作ります。
先に聞いておけば、割り振りのときに考慮できる場面も出てきます。
ただし、事業所ごとの人数の上限があるので、かなわない場合もあると、紙の上に一言書いておきます。
気持ちを聞きつつ、約束はしない。この距離感が大切です。
子どもの本音を知れるだけでも、割り振りの判断材料が増えます。
私の失敗は、この欄を作らなかったことでした。
友達と同じ所がいいという思いが、希望の欄に混ざって、人気の事業所に希望が集まってしまったのです。
別の欄を作ってからは、行き先の希望には「自分が行きたい理由」が書かれるようになりました。
気持ちの置き場所を先に用意するだけで、紙の中身がずいぶん変わります。
- 第一〜第三希望:事業所名を三つ。同じ所は書かないと説明する。
- 理由の一行:「人と話すのが好き」など短くてよい。
- 一緒がいい人:希望の欄とは別。かなわない場合もあると明記する。
- 気がかりなこと:体力・アレルギー・通学など、先生にだけ伝えたいこと。
ここまでの3つは、割り振りの前にできる仕込みです。
紙の作り方を整えておくと、割り振りの作業が驚くほど楽になります。
ポイント2:職場体験の事業所をもめずに割り振る3つの型(手順4〜6)
希望が集まったら、いよいよ割り振りです。
ここで大切なのは、公平だと子どもが感じられる順番で決めることです。
くじだけ、先生だけ、のどちらにも偏らず、状況に合わせて使い分ける考え方を紹介します。
割り振りの型のポイントを紹介します
なぜ抽選は希望が重なった所だけに使うのか
全員をいきなりくじで決めてしまうと、第一希望が重なっていない子まで、運だけで行き先が変わってしまいます。
まずは希望を集計して、第一希望が重ならなかった子は、そのまま決定します。
くじを使うのは、第一希望が定員を超えた事業所だけです。
この順番にすると、多くの子が第一希望にそのまま決まるので、くじへの納得感が上がります。
くじのやり方は、決める前に子どもたちへ宣言しておきます。
「重なったところだけ、くじで決めます」の一言が、不信感を防いでくれます。
宣言の場は、希望調査を配る日がちょうどよい時期です。
くじで外れた子には、第二希望がそのまま優先されると伝えます。
外れた瞬間の気持ちを受け止めたうえで、「次に近い所が待っているよ」と言えるかどうかが大切です。
くじの方法は、くじ引きの紙でも、学級の出席番号をもとにした乱数でも構いません。
見えるところで、全員が納得できる方法を選びましょう。
- 抽選:第一希望が定員を超えた事業所だけ。方法は先に宣言する。
- 先生の調整:理由の一行と、人数・通う道のりを見て決める。
- 二段階:定員の少ない所を先に決め、残りの子で再調整する。
なぜ理由の一行を読んで先生が調整するのか
くじだけでは決めにくい場面が、必ず出てきます。
たとえば、定員が一人だけの事業所に、強い思いを書いた子と、なんとなく選んだ子が並んだときです。
そんなときは、集めておいた理由の一行が、先生の調整を支えてくれます。
ただし、思いの強さだけで決めるわけではありません。
受け入れ人数、通う道のり、体力面の配慮など、事業所と子どもの条件を合わせて見ます。
調整はあくまで、全員がどこかに納得して行ける形に近づけるための作業です。
くじと調整の両方を使うことで、偏りを避けられます。
調整した子には、決めた理由を必ず一人ずつ伝えます。
「あなたの理由を読んで、ここがいいと思いました」と一言そえるだけで、子どもの受け取り方は大きく変わります。
先生が勝手に決めたのではなく、自分の言葉が読まれたと感じられるからです。
調整の結果を全員の前で説明する必要はありません。
個別に伝えることが、公平感を守るいちばんの近道です。
なぜ二段階に分けて決めるのか
全員の行き先を一度に決めようとすると、一人を動かしたとたん、ほかの子の行き先まで崩れていきます。
パズルのように連鎖して、先生の頭の中も紙の上も混乱します。
そこで、決める作業を二段階に分けます。
第一段階では、定員が少ない事業所を先に決めます。
第二段階では、残った子と残った枠で、もう一度希望を見直して調整します。
段階を分けると、動かしてよい範囲が小さくなるので、ミスが減り、見直しも楽になります。
全員の希望を一度に解こうとしないことが、いちばんのコツです。
動かしてはいけない範囲がはっきりするので、子どもへの説明もしやすくなります。
学年で人数が多い場合は、学年会で担当を分けると進みます。
第一段階を担任が各クラスで行い、第二段階の調整は学年の先生で集まって行う、といった分け方です。
調整は一人で抱えず、複数の目で見ると、見落としも減ります。
決めた内容は、一枚の表にまとめて学年で共有しておきましょう。
ポイント3:職場体験で取り残される子を出さない仕組み(手順7〜9)
決め方がうまくできても、ひとりだけ行き先が決まらない、という場面はあります。
決まる前の声かけと、条件の先出し、発表の順番。この3つが、取り残しを防ぎます。
最後に、学級の空気を守る手順をお伝えします。
取り残さない仕組みのポイントを紹介します
なぜ余りそうな子に先に声をかけるのか
どんな決め方をしても、余りやすい子はいます。
希望の紙が白紙のまま出てくる子や、第三希望までほとんど同じ事業所を書いた子です。
こうした子は、行きたくないのではなく、選ぶ材料が少ないだけのことが多いのです。
だから、提出を待つのではなく、提出の前に先生から声をかけます。
「行きたい所、まだ迷っているかな」と聞いて、仕事の中身つきの一覧を一緒に見てみましょう。
決める前の十分間が、決まったあとの一週間を救ってくれます。
ほんの数分の会話が、あとの安心につながります。
声をかけるときは、みんなの前ではなく、休み時間や帰りの会のあとに、さりげなく行います。
「選びにくそうに見えたから」という理由は伝えず、「一覧を見て気になった所があったら教えてね」と言葉を変えます。
責められている印象にならないよう、先生は横に並んで同じ資料を見る位置に座るのがおすすめです。
なぜ人数と行き方の条件を先に出すのか
決まったあとに、定員や通う道のり、集合時刻を伝えると、「聞いていない」という声が必ず出てきます。
特に、事業所までの距離や交通手段は、保護者の関心がとても高い項目です。
ですから、希望調査の紙を配る時点で、事業所ごとの定員、通い方、集合の時刻、持ち物と服装の決まりを、一覧にして全部見せておきます。
条件が先に見えていれば、子どもも保護者も、納得して選べます。
あとから条件で揺れることも減るので、先生の負担も軽くなります。
先生が一人で説明を抱えこまずにすむのも、先に出す利点です。
条件の中には、体力や配慮が必要な内容も含まれます。
たとえば、立ち仕事が長い事業所や、においの強い場所などです。
こうした情報は、希望調査の欄にある「気がかりなこと」とあわせて見ると、無理のない割り振りにつながります。
全員が安心して選べる材料を、最初にそろえておきましょう。
- 定員:事業所ごとに受け入れられる人数を一覧にする。
- 通い方と時刻:道のりと集合時刻、交通費の有無を書く。
- 持ち物と服装:事業所ごとの決まりを短く添える。
なぜ発表は一人ずつ先に伝えるのか
行き先の発表を、いきなり全体の掲示で行うと、期待どおりでなかった子は、みんなの前でその結果を知ることになります。
表情をつくる余裕もなく、がっかりした気持ちが周りにも伝わってしまいます。
そこで、掲示の前に、一人ずつ短い時間で先生から伝えます。
「ここになったよ。理由はこうだよ」と、決めた訳もそえます。
全体への掲示は、そのあとです。
順番を逆にしないだけで、発表の空気はずいぶんやわらかくなります。
期待どおりでなかった子の表情も、守ることができます。
一人ずつ伝える時間は、休み時間の数分で十分です。
発表と同時に、変更のルールも伝えておきます。
変更を受けつけるのは、体調や家庭の事情など、やむを得ない理由があるときだけにします。
「行きたい所と違うから変えてほしい」という希望は、できるだけ受け止めたうえで、「最初に決めた順番で決めたからね」と丁寧に説明します。
ルールを先に示しておくと、先生も一人で悩まずにすみます。
ここまでの3つの手順で、行き先決めの大きな山は越えられます。
あとは、決まった行き先に向けて、挨拶や言葉づかいを整える事前指導へ進みましょう。
明日の確認リスト
9つの手順を一度に全部やろうとしなくても大丈夫です。
まずは、明日の教室や学年会で、すぐに確かめられることだけを選んでみてください。
希望調査の紙を手元に出して、欄がそろっているかを見るところから始められます。
小さな見直しが積み重なって、行き先決めの空気は少しずつ変わっていきます。
- 希望調査の紙:第三希望と理由の欄があるか、机の上で数えてみる。
- 事業所の一覧:名前だけでなく、仕事の中身が一行ずつ書いてあるか。
- 決め方の宣言:「重なったところだけ、くじで決める」と言える状態か。
- 声をかける子:まだ迷っていそうな子を、名簿の上で三人思い浮かべる。
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よくある質問
第一希望が同じ事業所に集まったら全員くじにしますか
全員をくじにする必要はありません。
重なった事業所の希望者だけをくじにして、ほかの子は希望どおりに決めるのがおすすめです。
全員をくじにしてしまうと、重なっていない子まで運に左右されて、不公平感が生まれます。
くじで外れた子は、第二希望を優先して決めると伝えておくと、外れた瞬間の受け止め方がやわらかくなります。
事前に宣言しておくことが何よりも大切です。
宣言のときは、「重なった所だけくじ」「外れたら第二希望」と二つだけ伝えれば十分です。
子どもたちも、決め方が分かっているだけで安心します。
友達と一緒に行きたい希望は全部かなえるべきですか
全部をかなえる必要はありません。
「一緒がいい人」の欄で気持ちは聞きますが、事業所には定員があるので、約束はしないでおきます。
かなえられないときは、発表のときに理由を一言そえます。
また、友達と一緒でないと不安が強い子には、気がかりなことの欄や個別の声かけで、事情を聞いておきます。
そうした配慮が必要な子は、事前に学年で共有しておくと安心です。
気持ちを聞いてもらえたと感じるだけで、納得しやすくなる子も多いです。
かなわなかった理由を、ていねいに言葉にしましょう。
発表のあとに変えてほしいと言われたらどうしますか
体調や家庭の事情など、やむを得ない理由がある場合だけ変更を検討します。
「行きたい所と違うから」という理由の場合は、決め方の順番と、調整した理由をもう一度ていねいに伝えます。
変更の受付ルールは、発表と同時に伝えておくと、先生が一人で悩まずにすみます。
変更を認める場合でも、ほかの子の行き先に影響しないか、学年で確かめてから返事をしましょう。
焦って返事をしないことが大切です。
返事を急がない姿勢そのものが、子どもと保護者への誠実さになります。
結論は、学年で確かめてから出して大丈夫です。
おわりに
職場体験の行き先決めは、先生にとって気が重くなる仕事のひとつです。
でも、希望の集め方、割り振り方、取り残さない仕組みの3つを整えるだけで、もめる場面は大きく減らせます。
決め方を先に決めて、子どもたちに宣言する。
それだけで、「自分の言葉が読まれた」と感じられる行き先決めになります。
この職場体験は、子どもたちにとって、自分の仕事の好き嫌いや向き不向きを知る貴重な機会です。
その入り口を、納得のいく形で用意してあげたいですね。
ご視聴ありがとうございました。
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