
はじめに
校外学習の前の日に、「あしたはちゃんと約束を守ってね」と話したのに、当日の駅で班がばらばらになってしまった。
集合の時刻に遅れそうになって、思わず強い口調で叱ってしまった。
そんな経験はありませんか。
私も、初めて校外学習を担当したときに、まったく同じ失敗をしました。
前の日に約束を十個書いたプリントを読み上げて、「これで大丈夫」と安心していたのです。
ところが当日、駅の改札で班が二つに分かれ、見学先でも列が伸びて、気づけば私は叱ってばかりでした。
帰りのバスで考えて、分かったことがあります。
子どもたちは、約束を知らなかったわけではありません。
約束は聞いていたけれど、「その場所で自分がどう動くのか」が頭に浮かんでいなかったのです。
この記事では、中学校の校外学習の事前指導について、叱らずに班行動を整える三つの手順を、前日までに教室でできる形でお伝えします。
特別な道具はいりません。学活の十五分と、黒板、そして先生の少しの工夫だけで始められます。
- 校外学習の前日までに、教室でどんな準備をすれば班行動が乱れにくくなるか
- 守る約束を三つに絞り、迷ったときの動き方まで渡す具体的な方法
- 当日、叱る場面を減らすための「ほめどころ」の決め方と返し方
校外学習の事前指導 3つの手順
団体行動が乱れる原因は、子どもの意識の低さではなく、準備のしかたにあることがほとんどです。
そこでこの記事では、事前指導を三つの手順に分けます。
ひとつ目は、バスや見学先の場面を教室で先に歩いておくこと。二つ目は、守る約束を三つに絞って、迷ったときの動き方を渡すこと。三つ目は、当日ほめる場面を先に決めておくことです。
どれも、叱る場面を減らすための準備です。
- ポイント1:場面を先に歩く:当日の流れを四場面に分け、教室で口に出して歩く。
- ポイント2:約束は三つに絞る:迷ったら止まって連絡、まで渡しておく。
- ポイント3:ほめどころを先に仕込む:三か所を決めて、帰りに事実で返す。
ポイント1:校外学習の場面を先に歩く
事前指導というと、前の日に注意を並べて話すものだと思われがちです。
けれど、注意をいくら並べても、子どもの頭には場面が浮かびません。
先に歩かせるのは、場所ではなく、当日の流れです。
教室にいながら、当日の流れを口に出して歩いておく。それが、ひとつ目の手順です。
校外学習の場面を先に歩くポイントを紹介します
なぜ注意の言い聞かせでは動けないのか
前の日に「バスの中では静かに」「見学先では話をしっかり聞く」と伝えても、当日は思うように動けません。
理由は、子どもにとって約束が「ことば」のままで、「いま自分がいる場面」とつながっていないからです。
大人でも、初めて行く場所では、事前に聞いた注意を忘れて周りの動きに合わせてしまうものです。
だからこそ、注意を増やす前に、当日の景色を一緒に思い浮かべる時間をつくることが、いちばんの近道になります。景色が浮かんだ子は、約束が必要な瞬間に、自分でその約束を思い出せます。
やりがちな失敗は、先生が全部を話して、子どもは聞くだけになることです。
次の一手として、話す量を半分にして、子どもに答えを言わせてみてください。
「バスを降りたら、まず何をするかな」と問いかけて、隣の人とひとことずつ話させるだけで、教室の空気が変わります。
同じ内容でも、自分の口で言った言葉は、当日の行動に残りやすくなります。
- バス:降りる前に、忘れ物と人数をどう確かめるか。
- 移動:前の班と離れたら、どう動くか。
- 見学先:話を聞くとき、どこに立つか。
- 昼食:食べ終えたあと、集合の合図をどこで聞くか。
場面を四つに絞ると想像しやすくなる理由
当日の流れを全部確認しようとすると、時間が足りなくなり、子どもの集中も続きません。
そこで、場面を四つに絞ります。バス、駅などの移動、見学先、昼食です。この四つは、校外学習で迷子やもめごとが起きやすい場面と重なっています。
黒板に四つの場面を書き、それぞれに問いを一つだけ置きます。問いが一つなら、班での話し合いも二分ほどで終わります。短い時間で繰り返すほうが、一度に長く話すよりも、はるかに記憶に残ります。この四つが頭に入ると、残りの時間帯は子ども自身が応用して考えられます。
問いは、答えがひとつに決まらないものを選びます。
見学先なら「話を聞くとき、どこに立つと後ろの人にも見えるかな」。昼食なら「食べ終わったあと、集合の合図が聞こえる場所はどこかな」。
正解を当てる形にすると、できる子だけが答えて終わってしまいます。班で相談して決める形にすると、おとなしい子も、自分の考えを出しやすくなります。
前日の十五分で足りる理由
事前指導のために、特別な時間を取る必要はありません。前日の学活の十五分で足ります。
流れは三つです。最初の三分で、四つの場面を黒板に書いて見せます。次の八分で、班ごとに問いへの答えを相談してもらいます。最後の四分で、出た答えを班ごとに発表し、黒板に残します。
ポイントは、先生がまとめを話さないことです。子どもたちが出した言葉が黒板に並ぶことで、「自分たちで決めた」という感覚が残ります。十五分という短さが、先生にとっても続けやすい理由です。毎回の行事で同じ流れを使えば、準備の負担も減ります。
どうしても時間が取れない日は、帰りの会の三分だけでも大丈夫です。
四つの場面のうち、いちばん不安な場面ひとつに絞って、問いを投げかけます。たとえば、駅での移動が多い行程なら、「前の班と離れたらどうする」だけを全員で考えます。
一場面でも、先に歩いた経験があるかどうかで、当日の動きは大きく変わります。
ここまでの話をまとめると、ひとつ目の手順は「注意を言う」のではなく「場面を一緒に歩く」ことです。
子どもの口から出た答えは、先生が言った注意よりも、当日の行動に残ります。
まずは前日の十五分を、この時間にあててみてください。
ポイント2:班行動の約束は三つに絞る
場面を歩いたら、次は約束の整理です。
校外学習の約束は、気づくと増えていきます。ほかの学年の先生の話、前年度の反省、見学先からのお願い。全部が大切に見えるからです。
約束が増えるほど、守られる約束は減っていきます。
絞ることは、手を抜くことではなく、守れる形に整えることです。
班行動の約束は三つに絞るポイントを紹介します
約束が増えるほど守られなくなる仕組み
約束が十個あると、子どもは全部を覚えようとして、結局どれも覚えきれません。
覚えきれないと、当日は目の前の友達の動きにつられて、その場の雰囲気で動くようになります。
これは子どもの能力の問題ではありません。人が一度に意識して守れる決まりの数には、もともと限りがあるのです。
先生の側も、十個伝えたことで「言った」という安心を得てしまい、本当に必要な約束が何なのかを見失いがちになります。約束の数を減らすことが、子どもの守る力を引き出す最初の一歩です。だからこそ、本当に必要な約束だけを残す勇気が、先生には求められます。
絞るときの基準は、「これが守られなかったら、けがや迷子につながるか」です。
つながるものだけを残します。あいさつや身だしなみのように大切でも、命や安全に直結しないものは、日ごろの指導に任せます。
「何を言うか」より「何を言わないか」を決めるのが、先生の仕事です。
迷ったときの動き方まで渡す意味
約束を守るだけでは、想定外の場面で子どもは動けません。電車が遅れる、見学先の入口がわからない、友達が見当たらない。こうした場面では、約束どおりに動こうとしても、どうすればいいかが分からなくなります。
そこで、約束の最後に「迷ったらどうするか」を必ず付けます。私は「迷ったら、動かないで、連絡」と決めています。この一文があるだけで、子どもたちは焦って自分だけで解決しようとしなくなります。迷っても動かなくていいという許可が、安心につながるのです。動かずに待てる子が増えるほど、先生も落ち着いて対応できます。
大切なのは、連絡することは責められることではないと、先に伝えておくことです。
叱られるのを恐れた子は、黙ったまま動いて、かえって迷子になります。
「連絡してくれたら、先生は助かるし、そのほうがみんなが安全だよ」と、前日に一度だけ言葉にしておきます。それだけで、当日の連絡のしやすさが変わります。
班長に「迷ったらカード」を持たせる理由
約束を三つに絞っても、口で伝えただけでは、当日の駅や見学先でこぼれ落ちてしまいます。そこで、班長と副班長に、名刺サイズの「迷ったらカード」を渡します。
書くのは三行です。集合場所と時刻、先生の連絡先、迷ったときの動き方。これだけです。
カードが手元にあれば、班長は「どうしよう」と思った瞬間にそれを見られます。頭の中の記憶に頼らず、紙に頼れる形にしておくことが、当日の安心につながります。ポケットに入るサイズにして、ひもをつけて首から下げられるようにすると、なくす心配も減ります。
もうひとつ、カードには大きな効果があります。班長の気持ちが変わることです。
カードを渡すときに、「あなたたちの班を頼りにしているよ」とひとこと添えます。頼られていると感じた子は、班全体のことを自然に気にかけるようになります。
班長に負担が集中しないよう、副班長にも同じカードを渡し、二人で見る形にしておくと安心です。
- 集合:集合の場所と時刻を、班ごとに書く。
- 連絡:学校から預かった連絡先を書く。
- 合言葉:「迷ったら、動かないで、連絡」と書く。
二つ目の手順を一言でまとめると、「少なく、はっきり、迷ったときまで」です。
三つに絞った約束と、迷ったときの合言葉があれば、子どもたちは先生がいない場面でも自分で動けます。
約束の数を減らすことは、先生の安心にもつながります。
ポイント3:校外学習のほめどころを先に仕込む
三つ目は、当日の先生の動き方を決めておくことです。
当日の先生は、どうしても「問題が起きないか」を見張る目になります。その目で見ていると、見つかるのは乱れたところばかりです。
叱る場面を減らす一番の近道は、ほめる場面を増やすことです。
そのために、ほめる場面を先に決めておきます。
校外学習のほめどころを先に仕込むポイントを紹介します
ほめる場面を先に決めておく理由
人は、探しているものしか見つけられません。乱れを探していれば乱れが見つかり、よい行動を探していればよい行動が見つかります。
ですから、当日の朝までに、ほめどころを三か所だけ決めておきます。私が決めているのは、バスを降りるときのひとこと、見学先で話を聞く姿、集合に間に合った班の三つです。
この三か所だけは、必ず見て、必ず声に出す。そう決めておくと、当日の先生の目が、見張る目からほめる目に変わります。当日の朝にこの三つを手帳に書いておくと、迷わず動けます。見つける目が変われば、子どもを見る表情も自然にやわらかくなります。
ほめどころは、前日の事前指導で出てきた言葉と重ねると効果的です。
たとえば、班で「降りるときは運転手さんに声を出す」と決めたなら、それが実際にできた場面をほめどころにします。自分たちで決めたことが認められるので、子どもたちの表情が変わります。
ほめどころが三か所あるだけで、叱る場面は自然に減っていきます。
- バスを降りるとき:運転手さんへのひとことが出ていたか。
- 見学先:説明する人のほうを向いて聞けているか。
- 集合:五分前に班がそろっているか。
ほめ方は「事実」だけにする理由
ほめるときは、評価の言葉より、見たことをそのまま伝えるほうが届きます。
「えらいね」「さすがだね」は、先生の評価なので、ほめられた子が居心地悪く感じることがあります。一方で「降りるとき、運転手さんに声が出ていたね」は、ただの事実です。事実で返されると、子どもは「ちゃんと見てもらえていた」と受け取ります。
見られていたと感じた子は、次も同じ行動をとりやすくなります。ほめ言葉の数より、見ていた事実を言葉にすることが大切です。評価の言葉は、慣れないうちは控えめで構いません。
事実で返すときのコツは、場面と行動をセットで言うことです。
「見学先で、説明の人のほうを向いて聞いていたね」「集合の五分前に、全員そろっていたね」。短くて構いません。
全体の前で言うこともできますが、その場で小さな声で伝えるだけでも十分です。人前でほめられるのが苦手な子には、そっと近づいて、ひとことだけ伝えます。
帰りの会で外の方の声を返す意味
校外学習が終わった帰りの会では、見たことを三つ、事実で子どもたちに返します。そして、見学先やバスの運転手さんから声をかけてもらえたときは、それもそのまま伝えます。
先生にほめられるよりも、学校の外の大人から認められた経験のほうが、子どもの心には深く残ります。「自分たちは、外でも通用するんだ」と感じられるからです。
この経験が、次の行事で自分から動く力の土台になります。外の方の言葉は、先生のほめ言葉に頼りすぎないための心強い味方です。言葉が伝わったときの子どもの表情を、ぜひ見逃さないでください。
外の方からの言葉が無かった日も、がっかりする必要はありません。
その場合は、先生が気づいた事実を三つ返すだけで十分です。最後に「この動きは、次の行事でも使えるね」とつなげると、校外学習が一回きりの思い出で終わらなくなります。
行事のふり返りを深めたいときは、次の記事も参考にしてください。
三つ目の手順は、ほめる場面を先に仕込んで、帰りに事実で返すことです。
叱らずに済む場面が増えるほど、子どもは次の行事でも自分から動くようになります。
先生の目の向け方ひとつで、同じ校外学習がまったく違う一日になります。
明日の確認リスト
ここまで読んでくださった方へ、あしたの教室で確かめられることだけを、短くまとめました。
全部を一度にやる必要はありません。まずは、いちばん手をつけやすいところから、ひとつだけ選んでください。
校外学習の日までに時間があるなら、前日の学活の十五分を、この確認の順番で組み立ててみるのがおすすめです。
- 行程表:当日の流れを、バス・移動・見学先・昼食の四つに分けられるか。
- 問い:四つの場面それぞれに、子どもが答えを出せる問いをひとつずつ用意したか。
- 約束:けがや迷子につながる約束だけを、三つに絞れているか。
- カード:班長と副班長に渡す「迷ったらカード」の三行を書けているか。
- ほめどころ:当日見る場面を三か所、自分の言葉で決めたか。
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よくある質問
当日に約束を破った子は、その場で叱ったほうがいいですか
その場では短く止めて、叱るのは帰ってからにするのがおすすめです。
見学先や駅は、ほかの人の目がある場所です。そこで強く叱ると、本人は反省よりも恥ずかしさを強く感じ、その後の見学が重い空気になります。
その場では「いまは班に戻ろう」と行動だけを伝え、気になった点は帰りの会か翌日に、事実と一緒に話します。当日は安全の確保を最優先にして、話し合いは落ち着いた場所に移すと、子どもも素直に聞けます。叱るという行為は、場所と時間を選ぶだけで、はるかに伝わりやすくなります。子どもが落ち着いてから話すほうが、事実を整理して振り返る余裕も生まれます。
班長に負担が集中して、かわいそうになりませんか
負担を感じさせないためには、役割を二人で持つ形にするのが効果的です。
班長だけでなく、副班長にも同じ「迷ったらカード」を渡して、二人で見る約束にします。さらに、迷ったときは班長が決めるのではなく、班全員で先生に連絡する流れにしておけば、ひとりで抱え込みません。副班長の存在は、班長にとっての心の支えにもなります。二人で相談しながら動く経験は、リーダーとしての自信も育ててくれます。
カードを渡すときに「頼りにしているよ」と伝えると、負担ではなく信頼として受け取ってもらえます。
事前指導の時間が取れないときは、何から削ればいいですか
削るなら、ほめどころの共有よりも、約束の数を先に減らしてください。
時間が短いときは、三つの約束だけを黒板に書き、「迷ったら、動かないで、連絡」を全員で声に出して確認すれば十分です。場面を歩く時間は、帰りの会の三分で、いちばん不安な場面ひとつだけ行います。
ほめどころは先生の頭の中で決めておくだけで効果があるので、時間がまったくない日でも準備できます。時間が限られていても、準備の順番さえ決まっていれば、事前指導は十分に成り立ちます。迷ったときは、約束を減らして、短い時間で伝わる形にしてください。
おわりに
校外学習の団体行動が乱れるのは、子どもの意識が低いからではなく、準備が足りなかったからであることがほとんどです。
場面を先に歩く。約束を三つに絞って、迷ったときの動き方まで渡す。ほめどころを先に決めて、帰りに事実で返す。
この三つを前日までに整えるだけで、当日の先生は叱る人ではなく、ほめる人になれます。
私が失敗した十個の約束の日から学んだのは、「言った」ことより「浮かんだ」ことが大切だということでした。あなたの校外学習が、子どもたちにとって誇れる一日になりますように。
ご視聴ありがとうございました。
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