
はじめに
後期の委員が決まった日の放課後のことです。
黒板には新しい委員の名前が並び、教室にはほっとした空気が流れていました。
ところが、ふと見ると、前期の委員だった子が自分の席でじっと黙っています。
私はこれまで、委員が替わる日を「名前を書き換える日」だと思っていました。
けれど本人にとっては、半年間続けた役目が一日で終わる日です。
新しい委員にとっても、何から始めればいいのか分からないまま任される日になります。
学級委員の引き継ぎは、仕事の説明より先に「ありがとう」を渡すと、うまくいきます。
この記事では、中学校の担任が後期の委員へバトンを渡すときの手順を、3つに分けてお伝えします。
特別な道具は要りません。紙1枚と、放課後の10分があれば始められます。
- 前期の委員の仕事を、1枚の紙に書き出して認める方法
- 新しい委員と前の委員が、1週間だけ並んで動く進め方
- 委員を終えた子に、次の役割を返すときの声かけ
委員交代の引き継ぎ・3つの手順
引き継ぎは「前期の委員を認める」「1週間ふたりで並走する」「次の役割を返す」の3つの手順で組み立てます。
順番にも意味があります。
先に前の委員が認められていると、その子が新しい委員に自然とやさしく教えられるからです。
新しい委員への説明を急ぐより、まず前の委員の気持ちを整えるほうが、結果的に早く引き継ぎが進みます。
- ポイント1:前期の仕事を書き出して認める:1枚の紙に仕事を書き、場面でありがとうを伝える。
- ポイント2:最初の1週間はふたりで並走:前の委員が教え、新しい委員がやってみる。
- ポイント3:前の委員に次の役割を返す:元委員にせず、後期の出番をつくる。
ポイント1:学級委員の引き継ぎシートで、前期の仕事を書き出して認める
最初の手順は、前期の委員と放課後に座り、仕事を1枚の紙に書き出すことです。
認められた経験のある子は、次の人にもやさしく教えられます。
反対に、何も言われないまま役目を手放した子は、引き継ぎそのものに気持ちが向きません。
前期の仕事を書き出して認めるポイントを紹介します
なぜ引き継ぎは仕事の書き出しから始めるのか
引き継ぎというと、まず新しい委員への説明を考えがちです。
けれど私は、いちばん先に前期の委員へ向き合うことにしています。
半年間続けた仕事は、本人にとって小さくない時間だからです。
仕事を1枚の紙に書き出すと、本人の頭の中でも「自分はこれだけやってきた」と整理されます。
整理された子は、役目が終わった寂しさより、やりきった気持ちを持って席を立てます。
書き出す時間そのものが、半年間へのねぎらいになります。
ここを急がないことが、後の2つの手順を支えてくれます。
新しい委員への説明は、そのあとで間に合います。
書き出すときのコツは、担任が先に口を出しすぎないことです。
「号令」「集会の進行」と本人が思い出すのを待ち、詰まったところだけ「配布物は誰が運んでいたかな」と聞き返します。
10分あれば、たいてい8個から10個ほどの仕事が紙に並びます。
見えない仕事を拾うと何が変わるのか
委員の仕事には、教室から見えるものと見えないものがあります。
号令や進行は誰の目にも入りますが、配布物を運ぶ、黒板を消す、欠席の連絡を職員室で受けるといった仕事は、ほとんど気づかれません。
この見えない仕事を紙に載せて「これも、あなたがやっていたんだね」と伝えると、子どもの表情が目に見えて変わります。
本人が忘れていた仕事を、担任が思い出させる場面もあります。
そのときの驚いた顔が、いちばんの手応えです。
自分の頑張りを担任だけは見ていた、という実感が、引き継ぎへの前向きさにつながります。
私が以前、見えない仕事を一つだけ拾い忘れたことがありました。
後から本人が「黒板の日付を毎朝直していたのに」とぽつりと言ったのです。
それ以来、紙には必ず「ほかにやっていたことはある?」と書く欄を一つ残しています。
ありがとうを「場面」で渡す理由
「いつもありがとう」だけでは、中学生にはなかなか届きません。
届くのは、場面がはっきり見える言葉です。
たとえば「あの号令で、教室が静まったよ」「欠席の連絡を毎回忘れずに届けてくれて助かった」のように、いつ、何が、どうなったかを一つ添えます。
ほめ言葉は聞き流されても、事実は胸に残ります。
場面が思い出せないときは、無理に作らず、見た事実だけを短く伝えます。
嘘のない言葉のほうが、中学生にはよく響きます。
仕事リストの中から三つ選び、それぞれに一言ずつ場面を添える。それだけで、ありがとうは本物になります。
- 書き出す:放課後に10分、前の委員と仕事を紙に書く。
- 場面を選ぶ:リストから3つ、教室で見た場面を思い出す。
- 一言で伝える:「あの号令で、教室が静まったよ」のように事実を渡す。
やりがちなのは、口で「あとはお願いね」とだけ伝えて終わらせることです。
これでは、前の委員の頑張りに触れないまま、新しい委員だけを励ます形になります。
前の委員は置いていかれた気持ちになり、新しい委員も何を頼まれたのか分からないままです。
紙1枚と場面の一言を足すだけで、この行き違いはほとんど防げます。
ポイント2:委員交代は最初の1週間を並走させて、引き継ぎをやりきる
二つ目の手順は、最初の1週間だけ、前の委員と新しい委員を並べて動かすことです。
仕事は説明を聞くより、隣で見てやってみるほうが身につきます。
期間を1週間と区切っておけば、前の委員にも負担になりません。
最初の1週間は並走するポイントを紹介します
並走を1週間に区切る理由
前の委員にいつまでも手伝わせると、新しい委員は「頼ればいい」と考えて育ちません。
反対にすぐ手を離すと、分からないまま取り残されます。
そこで、並走の期間を最初の1週間と決め、はじめに本人たちへはっきり伝えます。
終わりが見えているから、前の委員も「あと数日だけ」と気持ちよく付き合えます。
新しい委員も「1週間たてば自分の仕事になる」と覚悟が決まります。
期限のない手伝いは、善意でも負担に変わっていきます。
期限をつけることが、引き継ぎをやさしくする工夫です。
- 前半:前の委員がやって見せ、新しい委員は隣で見る。
- 後半:新しい委員がやって、前の委員は見守る。
- 最終日:できたことをふたりで確かめ、担任が一言そえる。
週のはじめに「今週は前の委員が先生役だよ」とクラスにも一言伝えておくと、周りの子の見る目もやわらぎます。
新しい委員が失敗しても、隣に前の委員がいる安心感があります。
教える側とやってみる側の役割を決める
並走で大切なのは、ふたりの役割をはっきりさせることです。
前の委員は「教える人」、新しい委員は「やってみる人」と、名前をつけて渡します。
役割に名前があると、前の委員は口を出しすぎず、新しい委員は遠慮せずに手を動かせます。
ここで前の委員は、委員としての最後の仕事を持つことになります。
それは、次の人を育てるという、いちばん価値のある仕事です。
教える立場に立つと、人は自分の理解も深まります。
前の委員にとっても、学びのある一週間になります。
担任はそのことを、さりげなく言葉にしてあげてください。
声かけの例は「先生役、お願いしていいかな。あなたに教えてもらえると助かるよ」です。
断られたら無理にさせず、紙の仕事リストだけを渡して「分からないときだけ聞かせてね」と軽く頼みます。
担任が手を出さない範囲を決めておく
並走の1週間、担任はつい口を出したくなります。
けれど新しい委員の「やってみる」を奪わないために、手を出さない範囲を先に決めておきます。
私は、号令や進行の言葉づかい、配布物の運び方は子どもに任せ、安全に関わることと友だち関係のもつれだけを担任が受け持つようにしています。
この線引きがあると、担任は見守ることに集中でき、子どもたちも「任されている」と感じられます。
最後の日に「次は、あなたの声で進めてみよう」と背中を押せば、並走は気持ちよく終わります。
うまくいかない日があったら、前の委員を責めず、新しい委員も責めません。
「今日はここまでできたね」と事実を確認し、翌日の目標を一つだけ決め直します。
失敗を次の日に持ち越さないことが、後期の委員を長く続けさせるコツです。
ポイント3:前の委員に次の役割を返す、委員交代後のフォロー
三つ目の手順は、委員を終えた子に次の役割を返すことです。
委員が終わった子を、ただの元委員にしないでください。
半年間で育った力を、後期の学級の中でもう一度使える形にします。
前の委員に次の役割を返すポイントを紹介します
「元委員」にしないという考え方
委員の任期が終わった子は、急に出番を失います。
毎日のように前に立っていた子が、ある日を境に何も頼まれなくなると、役目を取り上げられたように感じてしまいます。
とくに責任感の強い子ほど、静かに元気をなくします。
この寂しさは、本人が口に出すことはほとんどありません。
だから担任の側が先に気づく必要があります。
気づかれないまま過ぎてしまうのが、いちばんもったいないところです。
だからこそ、任期の終わりに「次はこういう形で力を貸してほしい」と先に渡します。
委員という名前の肩書がなくなっても、頼りにされている実感は残せます。
- 相談役:新しい委員が困ったときに声をかけられる人。
- 行事の司会:次の行事で、進行を一回だけ引き受ける。
- 掲示づくり:学級の掲示や記録を、得意な形で支える。
元委員にしないための一番の近道は、任期の最終日に次の役割の話をしてしまうことです。
後日に回すと、お互いに切り出しにくくなります。
次の役割を選べる形で出す理由
役割を渡すときは、一つに決めつけず、選べる形で出します。
相談役、行事の司会、掲示づくりのように三つほど並べ、「どれならできそう?」と聞きます。
選べると、中学生は「自分で決めた」という気持ちを持てます。
断ってもいいことも、はじめに伝えます。
断る余地があるからこそ、引き受けたときの責任感が育ちます。
委員を終えて少し休みたい子には、無理に役割を渡さず、見守る立場に回ることも立派な選択だと伝えてください。
選択肢を示す側の担任は、押しつけにならない言い方を心がけます。
私のクラスでは、掲示づくりを選んだ子が、後期の行事のポスターを描いてくれました。
委員の頃には見えなかった、その子の得意な面が出てきた瞬間でした。
頼むときは小さく、短くする理由
次の役割は、期限も範囲も小さくして頼みます。
「後期ずっと相談役」では重く感じますが、「次の行事までの2週間だけ」なら引き受けやすくなります。
小さく始めて、本人がやりたいと言ったら広げれば十分です。
頼むときの言葉は短いほうが届きます。
言葉が長いと、頼みごとが命令のように聞こえてしまいます。
短い一言なら、断る自由も残せます。
「困ったときは、あなたに相談するね」の一言で、前の委員は自分がまだ学級に必要とされていることを知ります。
その実感が、後期の落ち着いた空気を支えてくれます。
役割を返した後は、1週間ほどしてから「どう、やれそう?」と軽く声をかけます。
負担になっていたら、期限を待たずに降ろしてあげて構いません。
明日の確認リスト
ここまで読んで、「やることが多そうだ」と感じたかもしれません。
でも、明日の教室で確かめることは、実は三つだけです。
全部を一度にやる必要はありません。
まずは前の委員の席を、放課後に一度だけ見てください。
黙っている子がいたら、それが引き継ぎを始めるサインです。
確認できたことから、一つずつ手順に乗せていけば大丈夫です。
- 前の委員の席:放課後に、ひとりで黙って座っていないかを見る。
- 仕事の一覧:前期の仕事を10個書き出せるか、紙1枚を試しに作る。
- 新しい委員:何から始めるか、本人が分かっている顔をしているか。
- ありがとうの場面:前の委員に伝えられる場面を、3つ思い出せるか。
仕事を1枚に書き出す記入欄がついた「当番と係が自分で回る仕組みシート」を、公式LINEで無料でお渡ししています。
登録された方には「学級通信100号」もあわせてお送りしています。
よくある質問
前の委員が引き継ぎを面倒がったらどうしますか
無理に引き受けさせず、まず紙の仕事リストだけ書いてもらいます。
面倒がる子は、引き継ぎが嫌なのではなく、自分の頑張りが見られていないと感じていることが多いからです。
放課後の10分で「あの号令で、教室が静まったよ」と場面を一つ伝えてみてください。
それだけで表情がゆるむ子は少なくありません。
面倒がる態度の裏にある気持ちを、まず一度だけ聞いてみるのも手です。
聞くだけで、態度がやわらぐことがあります。
並走はお願いベースにして、書き出しとありがとうだけでも手順1は成り立ちます。
新しい委員が自信なさそうなときは交代させたほうがいいですか
交代はさせず、並走を数日のばして様子を見ます。
最初の1週間で自信が持てる子はむしろ少数派です。
途中で交代させると、本人に「やっぱりだめだった」という印象だけが残ってしまいます。
続けられる形に整えるのが、担任の役目です。
自信のなさは、仕事が分からないことより「失敗したら恥ずかしい」という不安から来ることが多いので、前の委員が隣にいる時間を少し長くとります。
そのうえで、うまくいった場面を担任が一つ具体的に伝えると、2週目から表情が変わってきます。
引き継ぎの時間がとれないときは、どこを削りますか
削るなら並走の日数で、仕事の書き出しとありがとうは残します。
並走は3日に縮めても成り立ちますが、前の委員を認める時間をなくすと、引き継ぎ全体がぎこちなくなるからです。
放課後が取れなければ、休み時間の5分に紙を持って行くだけでも構いません。
全部を丁寧にやろうとして、結局どれも間に合わなくなるのが一番もったいないです。
小さくても、認める時間を残すことが、後の手順を支えます。
10分を作るのが難しい週は、仕事リストを3つに絞って書き出してください。
おわりに
委員の交代は、名前を書き換える日ではなく、バトンを渡す時間です。
前期の仕事を1枚の紙に書いて認めること。最初の1週間をふたりで並走すること。前の委員に次の役割を返すこと。
この3つがそろうと、前の委員にも新しい委員にも、学級の中に居場所が残ります。
まずは明日の放課後、前の委員の席をそっとのぞいてみてください。
そこから、後期の学級はやさしく動き始めます。
ご視聴ありがとうございました。
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