
はじめに
移動教室の前になると、廊下が先に騒がしくなる。
予鈴が鳴っても列が動かず、先頭がいないまま、ざわざわが奥まで広がっていく。
「静かに」と声をかけても、後ろの列には届いていない。
そんな場面に、心当たりはありませんか。
私もこの場面で、何度も立ち止まってきました。
叱れば一度は静まりますが、次の移動でまた同じことが起きます。
それは子どもたちの態度が悪いからではなく、出発の合図が決まっていないからでした。
決まっていないことを、子どもに「ちゃんとして」と求めても、動きようがないのです。
この記事では、移動教室で廊下が騒がしくなるクラスを、叱らずに整える3つの手順をまとめます。
直す場所は廊下ではなく、廊下の手前、教室の出口です。
明日の移動教室から、一つだけ試せる形にしてあります。
- 移動教室の廊下が騒がしくなる、本当の原因
- 黒板の三行と先頭の一言で、教室の出口を整える方法
- 「静かに」を使わずに、声の大きさをそろえるコツ
移動を整える3つの手順
移動教室の騒がしさは、廊下に出てから起きているように見えますが、原因はその前にあります。
誰が最初に動くのか。どんな声の大きさで歩くのか。着いたあとに何を見るのか。
この三つが決まっていないと、子どもは自分なりに動くしかなく、それが騒がしさに見えます。
この記事では、出発の合図、廊下の約束、着いたあとの拾い方の順に、先に決めておくことをお伝えします。
- ポイント1:出発の合図:予鈴ではなく、先頭の一言と黒板の三行で動き出す。
- ポイント2:廊下の約束:「静かに」をやめて、声の大きさを三段階で決める。
- ポイント3:着いたあと:出発より到着を見て、できていた点を拾う。
ポイント1:出発の合図を教室で決める(先頭・黒板の三行)
一つ目は、出発の合図を教室の中で決めることです。
廊下が騒がしくなるかどうかは、教室を出る前にほぼ決まっています。
予鈴は全員に聞こえますが、誰がいつ動くかまでは教えてくれません。
出発の合図のポイントを紹介します
移動教室の騒がしさは廊下の手前で決まる
廊下で騒がしくなるのは、教室を出た瞬間に突然そうなるわけではありません。
予鈴が鳴ったとき、誰が立つのか、誰が先に出るのか、何を持つのかが決まっていないと、子どもたちは周りの様子を見ながら動き出します。
その間に生まれる数十秒の空白が、おしゃべりの時間になります。
だから先生が直す場所は、廊下ではなく教室の出口です。出る前に動き方を決めておけば、廊下で叱る場面そのものが減っていきます。
先生が声を張り上げなくても済む教室は、出口の段取りが先に整っている教室です。そこから始めるだけで、毎日の負担がぐっと軽くなります。
たとえば移動教室の五分前、教科書と筆記用具を探している子、友だちを待っている子、立ったまま話し込んでいる子が、教室に混ざっています。
先生が「早く行くよ」と声をかけるほど、全員が同時に動こうとして出口が詰まります。
出口が詰まった列は、そのまま廊下で広がります。
動き出す順番を先に決めておくだけで、この詰まりは消えていきます。
予鈴ではなく先頭の一言を合図にする
予鈴は、全員に同じ音で聞こえます。けれど、聞こえることと、動き出すことは別です。
隣の子が立つのを見てから立つ子もいれば、音を聞いても話を続ける子もいます。
そこで合図を、予鈴ではなく、先頭になった子の一言に変えます。「移動します」と先頭が言ったら立つ、と決めておくのです。
音に反応するより、人の声に反応するほうが、教室の動きはそろいます。
合図が決まっている教室では、子どもたちが先生の顔色ではなく、先頭の動きを見て自分から立ち上がります。この変化は、一週間ほどで目に見えてきます。
先頭の一言は、短いほど続きます。「移動します」だけで十分です。
長い号令にすると、言う子が緊張して、言えない日が出ます。
最初の一週間は先生が横で口を合わせ、二週間目からは先頭に任せます。
言えなかったときは、先生が小さく「お願いします」と促せば、その場で叱らずに進められます。
- 持ち物:次の授業で使うものを、先頭が声に出して確かめる。
- 並ぶ順:席の列順か出席番号順のどちらかに決め、毎回同じにする。
- 先頭の名前:その日の先頭を黒板に書き、全員が見える場所に残す。
先頭を毎回かえると動きが変わる理由
先頭を固定すると、決まった子だけが目立ち、ほかの子は「自分には関係ない」と感じやすくなります。
そこで先頭は、席の順で毎回かえます。役目を持った日の子どもは、不思議と動きが変わります。
早めに立ち、列を見て、遅れている子を待つ。先生が言わなくても、そういう動きが出てきます。
全員が一度は先頭をやる、と決めておけば、特別な子だけが頑張る形にもなりません。
役目が順番に回ると、「次は自分の番だ」という見通しが生まれ、ほかの子の先頭の動きも自然と目で追うようになります。見ているうちに、動き方を覚えていきます。
先頭を任せるときは、「うまく並ばせること」を求めすぎないのがコツです。
先頭にできるのは、立つ合図を出すことと、遅れている列を少し待つことの二つだけでいいのです。
列が乱れても、先頭の責任にはしません。乱れたときは、先生が先頭の横に立ち、一緒に整えます。
責められない役目だと分かると、子どもは安心して先頭を引き受けます。
出発の合図は、廊下に出る前にすでに決まっています。
黒板の三行と、先頭の一言。この二つがあるだけで、教室の出口は驚くほど静かに流れ始めます。
ポイント2:廊下の約束を基準にする(声の大きさ・ゼロの場所)
二つ目は、廊下の約束を「基準」にすることです。
「静かに」という言葉は、人によって幅が違います。
幅が違う言葉を重ねて注意しても、子どもには何が足りないのか伝わりません。
声の大きさのポイントを紹介します
「静かに」が人によって違ってしまう理由
「静かに」と言われて、ひそひそ話をする子もいれば、笑いをこらえて小さな声で話す子もいます。
どれも本人にとっては静かにしているつもりで、先生の「静かに」とは幅がずれています。
ずれている状態で何度も注意すると、子どもは「ちゃんとやっているのに叱られた」と感じてしまいます。
だから、言葉の幅をそろえる基準が必要です。声の大きさを、段階にして見せるのです。
段階が目に見えれば、子どもは自分の声の大きさを、自分で調整できるようになります。先生が毎回注意しなくても、基準が代わりに働いてくれます。
基準は、難しいものでなくていいのです。「ゼロ」「ひそひそ」「ふつう」の三つで足ります。
黒板の端に、廊下の絵と一緒に書いておくと、子どもがいつでも見返せます。
最初の二、三回は、廊下に出る前に先生が一度だけ声に出して確かめます。
基準を言葉で共有できると、注意の中身が「静かに」から「そこはゼロだよ」に変わり、責められる感じが減ります。
- ゼロ:授業中の教室の前。話さない、足音も小さく歩く。
- ひそひそ:階段と曲がり角。隣の人にだけ聞こえる声で話す。
- ふつう:広い場所。ふつうの声で話してよい。
場所ごとに声の大きさを決める考え方
声の大きさは、場所によって変えるのが自然です。授業中の教室の前は、中で授業をしている人がいるので声ゼロ。階段や曲がり角は、人とぶつかりやすいので、ひそひそ。広い場所は、ふつうの声でも構いません。
こうして場所と理由をセットにすると、「先生に叱られるから静かにする」から、「迷惑がかかるから静かにする」へ変わります。
理由が分かる約束は、先生がいない場所でも続いていきます。
決める場所の数は、三つか四つで十分です。数を絞るほど、子どもは覚えやすく、先生も言いやすくなります。
場所の決め方は、実際に校舎を歩きながら確かめると早く決まります。
一度だけ学級で歩き、「ここは授業中の教室の前だからゼロ」と先生が言いながら、ゆっくり進みます。
所要時間は五分ほどです。
この五分があると、その後の移動で「どこがゼロか」を聞き返す場面が消えます。教科の先生にもゼロの場所を共有しておくと、学年全体で足並みがそろいます。
先生が先に黙るという合図
ゼロの場所に近づいたら、先生が先に黙ります。これが、いちばん効く合図です。
「静かに」と口で言うと、その声自体が廊下に響いてしまいます。先生が黙って歩けば、子どもは先生の背中を見て、自分から声を落とします。
私は若いころ、廊下で大声を出して、授業中の教室に声を響かせてしまいました。いちばん騒がしかったのは、自分の声でした。
それ以来、ゼロの場所では口を閉じ、歩く姿で示すようにしました。声を出さない先生の後ろを歩くとき、子どもたちは自然に足音まで小さくなります。言葉より、背中が伝えるのです。
ゼロの場所を無事に通りすぎたら、事実で返します。
「今の通り方、となりの授業の邪魔にならなかったよ」と、見えたことをそのまま言うだけです。
ほめ言葉を飾らなくても、事実を伝えれば、子どもは自分たちの動きを自分で確かめられます。
通りすぎる前ではなく、通りすぎた直後に言うことが、いちばん届く言い方です。
廊下の約束は、言葉でなく基準で伝えます。
声の大きさに名前がつくだけで、先生も子どもも、同じ物差しで動けるようになります。
ポイント3:着いたあと・戻ったあとを拾う(移動先の先生・次の一手)
三つ目は、着いたあと、戻ったあとを拾うことです。
出発よりも、到着を見ます。
廊下の様子だけで評価すると、叱る材料ばかりが目に入ってしまいます。
到着の拾い方のポイントを紹介します
出発より到着を見る理由
移動教室で先生が気にするのは、廊下での様子になりがちです。けれど、移動の目的は、次の授業に気持ちよく入ることです。
だから成功の基準を、出発や廊下ではなく、到着にします。席についていて、教科書と筆記用具が机の上にそろっていれば、その移動は成功です。
途中で少し声が大きくなった日でも、到着が整っていれば、半分以上は合格と考えます。
基準を到着に置くと、叱る回数が減り、ほめる場面が増えます。
先生の気持ちも楽になり、子どもも「見てもらえている」と感じます。到着の基準は、一度決めたら変えずに使い続けます。
到着の様子は、移動先の先生に尋ねるのがいちばん確かです。
担任は教室にいなくても、教科の先生の目を借りれば、その日の様子が分かります。
「席についていた」「準備ができていた」といった一言が聞ければ、それだけで教室に持ち帰れる事実になります。
先生が見ていない時間の子どもの姿を、教科の先生が補ってくれます。
移動先の先生にきくという仕組み
移動先の先生に、「今日の移動はどうでしたか」と一言きいておきます。長い相談にする必要はありません。
忙しい先生ほど、短い質問のほうが答えやすいものです。休み時間に廊下ですれ違ったときの、たった一言で十分です。
返ってきた言葉の中から、できていた点を一つだけ拾い、教室で伝えます。直す点があれば、次の移動の前に先頭と一緒に確かめます。
叱るために聞くのではなく、拾うためにきく、という姿勢が続けるコツです。
拾った一言は、メモに残しておくと、次の移動の前に使えます。短くても、積み重ねが大きな材料になります。
この一言のやり取りは、教科の先生との関係づくりにもなります。
「いつも気にかけてくれている」と伝わるので、移動先の先生が子どもたちのよい動きに気づいてくれるようになります。
給食の準備や片づけの動きも、順番を先に決めておくと同じように整います。
- 席:チャイムまでに席についていたかを見る。
- 準備:教科書と筆記用具が机にそろっていたかを見る。
- 一言:移動先の先生から聞いた、できていた点を一つ伝える。
うまくいかない日は叱る前に三十秒
それでも騒がしくなる日はあります。そのときは、移動の途中で全体を止めて叱るのではなく、次の移動の前に三十秒だけ練習します。
先頭の合図、声の大きさ、出発の順番の三つを、教室の中で確かめるだけです。
叱られた記憶より、うまくできた記憶のほうが、次の行動を変えます。
練習してできたら、その場で事実を返します。「今の出方なら、廊下でも大丈夫だね」と伝えれば、子どもは自信を持って出発できます。
練習の時間は、授業のはじまりを食わない範囲に収めるのが大切です。短く終えるほど、次の移動でも気軽に取り入れられます。
三十秒の練習は、短いほど続きます。長い説教は、教室の空気を重くしてしまい、次の授業の入りも悪くなります。
練習は一回で終わらせ、できなくても二回目は求めません。
できなかった日の振り返りは、帰りの会で一つだけ、事実を伝えます。
「明日は先頭の合図から始めよう」と未来の一手で終わらせれば、叱った後味が残りません。
学級通信より|1年生・6月|3年間で1,000枚以上のうちの1枚
「当たり前の質を上げていく」
担任のことば:「帰りに教室の掃除をしていた人たちがいた。何気なくできるところに心を感じる。」
3年生の激励会の練習が続く6月の号です。日記には、給食の準備を急ぐよう声をかけ合う姿や、食べ終わった人から片付けに行く動き、移動教室のあと急いで運動場へ向かい、チャイム前に走り終えたことが書かれていました。「動きの悪い人に注意できなかった。反省している」と書いた人も、「当たり前に思うかもしれないけど、当たり前からできるようにしたい」と書いた人もいました。行事でついた力が、ふだんの生活に残っていました。
この号から使えること:行事の練習期間は、練習の出来より「当たり前の質」を拾います。注意できなかったと反省する日記も載せると、次の日に声をかける人が出てきます。
4月の初日から100号分をまとめた「学級通信100号」は、公式LINEで無料でお届けしています。この号(6月・激励会の練習期間)も「学級通信100号」に入っています。
到着を整えるのは、廊下の静けさだけが目的ではありません。
次の授業に気持ちよく入れること。それを先生と子どもで一緒に確かめていくことが、移動を整える一番の近道です。
明日の確認リスト
全部を一度に始める必要はありません。
明日の移動教室で、一つだけ選んで試してみてください。
うまくいったかどうかは、廊下の静けさではなく、教室を出る前の動き方と、到着したときの席の様子で確かめられます。
小さく試して、小さく直す。その繰り返しが、移動を落ち着かせてくれます。
- 黒板:持ち物・並ぶ順・先頭の名前の三行を、出発前に書けたか。
- 先頭:今日の先頭が、席の順で決まっていて、一言を言えたか。
- ゼロの場所:授業中の教室の前だけは声ゼロ、と一度言えたか。
- 到着:移動先の先生に、「今日はどうでしたか」と一言きけたか。
そのまま書きこめる「当番と係が自分で回る 仕組みシート」を、公式LINEで無料でお渡ししています。
登録された方には「学級通信100号」もあわせてお送りしています。
よくある質問
先頭の子が合図を言えなかった日は、どうすればいいですか
言えなかった日は、先生が横で口を合わせて、そのまま進めてください。
人前で声を出すのが苦手な子にとって、先頭の一言は思った以上に重い役目です。そこで叱ってしまうと、次の先頭から逃げたくなります。
先生が小さな声で「移動します」と一緒に言えば、子どもはほっとして動き出せます。
慣れてきたら少しずつ先生の声を減らし、最後は先頭だけで言えるようにします。急がないことが、続けるいちばんのコツです。
言えない日があること自体は失敗ではなく、役目に慣れていく途中の姿として受けとめます。
「静かに」と言わずに、どう注意すればいいですか
「静かに」ではなく、場所の名前で伝えてください。「ここはゼロだよ」「階段はひそひそだよ」という言い方です。
場所の名前で伝えると、子どもは自分の声の大きさと基準を見比べて、自分で直せます。人格を責められた感じも、残りません。
注意するときは、短く、一回だけ。同じ言葉を重ねるほど、聞き流す癖がついてしまいます。
直ったら、すぐに「それでいいよ」と事実を返せば、次からは言わなくても済むようになります。
叱る回数を減らすことが、結果としていちばんの近道になります。場所の名前を黒板に残しておけば、先生の声がなくても思い出せます。
移動先の先生に毎回きくのは、負担になりませんか
毎回でなくて大丈夫です。週に一度、すれ違ったときの一言でも十分に効果があります。
忙しい先生に負担をかけないことが、続けるための条件です。「今日はどうでしたか」と短くきいて、返事を待たずに「ありがとうございます」と添えれば、相手の時間を奪いません。
きく目的は、先生を評価することではなく、子どもの到着の様子を拾うことです。
その目的が伝わっていれば、教科の先生も気持ちよく答えてくれます。
お礼の一言を忘れないことも、関係を長く続ける大切な工夫です。短い会話の積み重ねが、学年全体の信頼につながっていきます。
おわりに
移動教室の廊下が騒がしいのは、子どもたちが悪いからではありません。
合図と基準が決まっていないだけで、決めれば、叱らなくても整います。
出発の合図を教室の中で決め、廊下の約束を声の大きさで示し、着いたあとにできていた点を拾う。
この三つを、明日の移動教室から一つだけ試してみてください。廊下の騒がしさは、教室の出口で直せます。
ご視聴ありがとうございました。
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