
はじめに
九月は、避難訓練のある学校が多い時期です。
ところが実際には、ただ並んで歩いて終わり、という形になっている学級も少なくありません。
放送が鳴っても私語が止まらず、廊下ではにやにやしている子がいる。
そんな光景を見て、ため息をついたことはないでしょうか。
私も若いころ、並ぶ直前に「まじめにやりなさい」と言っていました。
けれど、あの言葉はほとんど残りませんでした。
目的を伝えないまま、態度だけを求めていたからです。
子どもにとっては、意味の分からない時間になっていました。
訓練の流れそのものは学校全体で決まっていて、担任にはほとんど動かせません。
けれど、並ぶ前の30秒と、終わって教室に戻った数分は担任のものです。
この記事では、避難訓練を「やらされ」で終わらせないための3つの手順をお伝えします。
避難訓練を「やらされ」にしない 3つの手順
避難訓練は、年に二回か三回しかありません。
本番のための練習ができる、数少ない日です。
けれど中学生になると要領を覚えていて、ふざけ方も覚えています。
担任の出番は、訓練そのものよりも、その前と後ろにあります。
これから挙げる3つは、どれも準備がほとんど要りません。
紙も道具も使わず、話す順番と見る場所を決めておくだけです。
次の訓練から、そのまま試せます。
- その1:前に、30秒だけ語る:目的・場面・合言葉の順で話し、今日の目標を一つだけ渡す。
- その2:当日は、評価でなく確認:速さではなく、静けさと声の届き方を見る。
- その3:その日のうちに、教室で返す:反省会にせず、できていた行動を名前で価値づける。
ポイント1:訓練の前に、30秒だけ語る
一つ目は、並ぶ前の語りです。
必要なのは、長い説明でも注意でもありません。
意味が分かると、姿勢は言われなくても変わります。
訓練の前に、30秒だけ語るのポイントを紹介します
「まじめにやりなさい」では、まじめにならない
並ぶ直前に、まじめにやりなさい、と声をかけたことはないでしょうか。
私も若いころは毎回そう言っていました。
けれど、あの一言はほとんど残りません。
理由ははっきりしていて、なぜやるのかを伝えないまま、態度だけを求めているからです。
中学生は、意味の分からない指示ほど受け流します。
ふざけて見える子も、反抗しているわけではなく、この時間が何のためにあるのかを知らないだけ、ということが多いんです。
だから注意の量を増やしても、姿勢は変わりません。
先に渡すのは意味のほうで、態度はその後からついてきます。
目的・場面・合言葉の順に話す
話す順番を決めておくと、30秒で収まります。
はじめに目的です。
これはいのちを守るための練習であって、上手にできたかを競うものではない、と伝えます。
次に場面です。
地震が起きる時間は選べません。
休み時間かもしれませんし、部活動の最中かもしれない。
だから、先生がそばにいないときでも自分で動けるようにしておくのだ、と話します。
最後に合言葉です。
おさない、かけない、しゃべらない、もどらない。
この四つは、その場で全員にそろえて言わせます。
原稿は要りません。
順番を三つ覚えておけば、毎回同じ形で話せます。
今日の目標を、一言にしてから並ぶ
語りの最後に、今日の目標をひとつだけ足します。
避難にかかった時間を全校で読み上げる学校もありますが、学級として追いかけるのはそこではありません。
今日はだまって歩けたら合格です、と言い切ってしまうほうが、子どもは動きやすくなります。
目標がひとつなら、できたかどうかを本人が自分で判断できるからです。
三つも四つも並べると、結局どれも意識に残りません。
言うのは並ぶ直前でかまいませんし、黒板の隅に書いておくのも効きます。
何ができていればいい日なのかを一行にしてから並ぶ。
たったこれだけで、廊下の空気は変わりますし、終わったあとに返す言葉も決まります。
- 目的:いのちを守るための練習で、上手さを競うものではない。
- 場面:地震が起きる時間は選べない。先生がそばにいない時間もある。
- 合言葉:おさない・かけない・しゃべらない・もどらない、を全員でそろえて言う。
原稿は要りません。
順番を三つ覚えておくだけです。
最後に、今日の目標を一つだけ渡してから並ばせましょう。
ポイント2:当日は、評価でなく確認にする
二つ目は、当日に担任が見る場所です。
採点する時間ではなく、確認する時間にします。
本番で命を分けるのは、速さよりも声の届き方です。
当日は、評価でなく確認にするのポイントを紹介します
見るのは、速さではなく静けさ
当日にやりがちなのが、うまくできたかどうかを採点してしまうことです。
全体の避難時間が放送で読み上げられると、つい速さを気にしてしまいます。
けれど本番で命を分けるのは、速さよりも指示が全員に届いているかどうかです。
走って早く着いた列より、静かに歩けた列のほうが、次の指示を聞き取れます。
だから当日、担任が見るところは速さではありません。
おしゃべりが止まっているか、放送や先生の声が最後尾まで聞こえているか。
その二つだけを確認します。
見る場所を絞っておくと、担任のほうもあわてずにすみます。
列の先頭ばかり見ずに、後ろ半分に立って全体を眺めるのがおすすめです。
経路は、先に自分の足で歩いておく
もうひとつおすすめしたいのが、訓練の前に自分の足で経路を歩いておくことです。
教室を出て、階段を下りて、昇降口から外へ出るまで。
実際に歩いてみると、机の間が狭くて列が詰まる場所や、放送が聞こえにくい踊り場が見つかります。
分かっていれば、当日そこに立って合図を出せます。
時間は五分もあれば足ります。
年度のはじめに一度歩いておくだけでも違いますし、教室が変わったときは必ず歩き直しておきたいところです。
担任が道を知っていて、迷わずに先頭へ立てる。
それだけで、子どもは落ち着いて動けます。
動きにくい子の分は、朝のうちに決めておく
見落としやすいのが、その日に動きにくい子のことです。
足をけがしている子、体調がすぐれない子、久しぶりに登校した子。
全体の号令だけでは、その子の分は決まりません。
誰と一緒に動くのか、どの道を通るのか、教室に残る場合は誰が付き添うのか。
朝のうちに決めて、本人に短く伝えておきます。
みんなと同じにできない、という不安を抱えたまま並ばせないことが大切です。
付き添う子を頼むときは、係の仕事として頼むと本人も動きやすくなります。
学年の先生や養護教諭にも、前の日までに一言伝えておくと安心です。
ここを決めておくと、当日その子だけが取り残される、ということが起きません。
- 静けさ:おしゃべりが止まっているか。速さは追いかけない。
- 声の届き方:放送と先生の指示が、列の最後尾まで聞こえているか。
- 動きにくい子:誰と、どの道を通るか。残る場合は誰が付き添うか。
見る場所を二つに絞ると、当日は落ち着いていられます。
採点しようとするから、あわてるんです。
確認する日だと決めておきましょう。
ポイント3:その日のうちに、教室で返す
三つ目は、訓練が終わったあとの数分です。
ここをどう使うかで、次の訓練の空気が決まります。
反省会にすると、避難訓練は叱られる行事になります。
その日のうちに、教室で返すのポイントを紹介します
反省会にすると、次の訓練が重くなる
訓練が終わって教室に戻った、あの数分をどう使うかで次の訓練の空気が決まります。
いちばんもったいないのは、反省会にしてしまうことです。
しゃべっていた、列が乱れていた、と並べていくと、避難訓練は叱られる行事として記憶されます。
次の年に同じ日が来たとき、子どもは最初から身構えます。
もちろん、直したいところはあるはずです。
それを言わないという話ではなく、後ろに回して短く一つだけにするということです。
それでも先に返すのは、できていた行動のほうにします。
順番を変えるだけで、同じ内容でも受け取り方はまるで違ってきます。
誰の、どの行動がよかったかを名前で返す
返し方は難しくありません。
誰の、どの行動がよかったのかを、名前を出して伝えます。
放送が始まったときに、前を向いて黙ってくれた人がいた。
あの一言があったから、まわりも静かになった。
そういう具体を、二つか三つ挙げれば十分です。
全体に向かって、よくできました、と言うだけでは誰にも届きません。
名前と行動がそろって、はじめて自分のことになります。
そして、その行動にどんな意味があったのかを一言そえます。
静かにできたから、次の指示が全員に届いたのだ、という具合です。
意味まで返すと、次の場面でも同じ行動が出てきます。
学級通信には、一度だけ短く残す
最後に、学級通信へ短く残しておきます。
長い記事にする必要はありません。
訓練の日に見えた行動を、三行ほど書いておくだけで十分です。
書いておくと、次の訓練の前に読み返せます。
前はここまでできたね、と言えるので、語りの材料がひとつ増えます。
保護者にも、学校が何をしていて子どもがどう動いたのかが伝わります。
訓練は年に数回しかないので、記録がないと毎回ふりだしに戻ります。
掲示物の隅に貼っておくのでもかまいませんし、手帳の一行でも十分です。
大事なのは、思い出せる形でどこかに残しておくことのほうです。
三行の記録が、次の年の担任にも渡っていきます。
- 先に返すのは、できていた行動:直したいところは、その後で短く一つだけ。
- 名前と行動をそろえる:誰の、どの行動がよかったのかを具体で二つか三つ。
- 三行だけ記録する:学級通信に残し、次の訓練の前に読み返す。
かける時間は3分で足ります。
戻ってすぐ、席に着いたところで話しましょう。
日をまたぐと、子どもの記憶から場面が消えてしまいます。
おわりに
避難訓練の流れは、担任にはほとんど動かせません。
けれど、並ぶ前の30秒と、戻ってからの3分は担任のものです。
目的・場面・合言葉を30秒で渡すこと。
当日は、評価ではなく確認にすること。
その日のうちに、できていた行動を名前で返すこと。
全部をそろえようとしなくて大丈夫ですよ。
次の訓練でやることは、一つだけで十分です。
並ぶ前に30秒、なぜやるのかを話してみてください。
それだけで、子どもの歩き方は変わります。
行事は、日常の延長線にあります。
静かに動けた、声をかけられた、という経験は、そのまま教室に戻ってきます。
避難訓練は、こなす行事ではありません。
いのちの話を落ち着いて渡せる、数少ない日です。
ご視聴ありがとうございました。
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