行動経済学入門: 人間の意思決定を理解する

アンダーマイニング効果

報酬が動機を阻害する

アンダーマイニング効果とは、自ら望んで行った行為に対して報酬などが与えられ、その結果、自主性が低下する現象を指します。
この効果は、報酬が目的となり、報酬がなければ行動できなくなる意欲の低下を意味します。

アンダーマイニング効果が起こる原因は以下の3つが一般的です:

1. 罰や締め切りを設定される

罰や締め切りはストレスを与え、個人が本来持ち合わせている「自主性」を低下させる原因になる場合があります。

2. 監視されている

監視されていることでも、やる気が低下する場合があります。監視がストレスになるのです。

3. 評価を下される

評価とは、報酬などを与えるために下されるものです。
評価の先に報酬がある場合、報酬を目的に努力を始める人はいます。
しかし、報酬が無くなった場合に、同じ行動を自主的にする人は少ないのです。

アンダーマイニング効果を防ぐ方法としては、目で見える報酬を用意しないことが重要です。
また、エンハンシング効果を活用することも有効です。
エンハンシング効果とは、外発的動機によって内発的動機が強まることを指します。

アンダーマイニング効果の具体例

ある学校で、生徒たちが自主的に図書館で読書を楽しんでいるとします。
しかし、学校側が「読書をするとポイントがもらえ、ポイントがたまると賞品がもらえる」という制度を導入したとしましょう。

初めは生徒たちは喜び、より一層読書に励むようになります。
しかし、時間が経つと生徒たちは「ポイントをもらうため」に読書をするようになり、本来の「読書を楽しむ」という目的が薄れてしまいます。
さらに、賞品がもらえないときや、ポイントがなくなったときには、読書をする意欲が失われてしまうかもしれません。

これがアンダーマイニング効果の一例です。
報酬が与えられることで、本来楽しんでいた行動が報酬目的の行動に変わり、報酬がなくなったときにはその行動をやめてしまう、という現象が起こります。
このように、報酬が内発的な動機を低下させる可能性があるため、報酬の与え方には注意が必要です。

感応度逓減性

母数によって変わる価値

感応度逓減性(かんのうどていげんせい)とは、人の感情が段々と減少する性質を指します。
これは、人の幸せや不幸が長く続かない理由を行動経済学で説明しています。

具体的な例を挙げると、借金やリボ払いを始めるときは最初は不安感がありますが、だんだんと借金やリボ払いをすることに慣れていきます。
最初の借金は10万円でしたが、20万円、30万円と借金をしていくと段々と「借金をすることに慣れていきます」。
借金をするマイナスな感情は最初がピークで、借金をすればするほど、借金額が大きくなるのにマイナスな感情が薄れていきます。
これこそが「感応度逓減性」です。

また、感応度逓減性は、行動経済学の「プロスペクト理論」で登場します。
プロスペクト理論は、2002年にノーベル賞を受賞しています。

感応度逓減性は、利益や損失の絶対値が大きくなるにつれ、変化への感覚が減少する心理の特徴です。
たとえば、同じ1万円の損失であっても、10万円が9万円になる方が、100万円が99万円になるよりも苦痛を大きく感じます。

プロスペクト理論とは

プロスペクト理論は、不確実性下(リスクがある状況)における人間の意思決定をモデル化した理論です。
この理論は、行動経済学でもっとも有名な理論の一つで、2002年にノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン氏とエイモス・トベルスキー氏によって提唱されました。

プロスペクト理論は以下の3つの原則に基づいています

1. 損失回避性

「利益」から得られる満足より、同額の「損失」から得られる苦痛の方が大きいために、「損失」を「利益」より大きく評価する心理現象。

2. 感応度逓減性

「利得」「損失」の絶対値が大きくなるにつれて、「嬉しさ」「悲しさ」の感覚が鈍っていく現象。

3. 参照点依存性

人は富そのものでなく、富の変化量から効用を得る²。

具体的な例を挙げると、以下のようなギャンブルの選択肢があるとします:

  • 選択肢A:コインを投げて、表が出たら100万円もらえるが、裏が出たら何も手に入らない。
  • 選択肢B:確実に50万円もらえる。

この場合、多くの人は「選択肢B:確実に50万円もらえる」を選びます。
これは「損失回避性」が働いている例です。
一方で、同じ人が200万円の負債を抱えているときには、以下の選択肢があるとします:

  • 選択肢A:無条件で負債が100万円減額され、負債総額が100万円となる。
  • 選択肢B:コインを投げ、表が出たら支払いが全額免除されるが、裏が出たら負債総額は変わらない。

この場合、多くの人は「選択肢B:コインを投げ、表が出たら支払いが全額免除される」を選びます。
これは「損失回避性」が働いている例です。

フレーミング効果

枠組みを変えると価値が変わる

フレーミング効果(framing effect)とは、表現の仕方によって情報の印象が変わり、意思決定が影響される心理現象です。
同じ事実でも、その提示の仕方によって人々の解釈や判断が変わることを指します。

たとえば、手術の成功率を「95%の確率で成功します」と表現するのと、「5%の確率で失敗します」と表現するのでは、受け取る印象が大きく変わります。
内容は同じでも、前者はポジティブな印象を、後者はネガティブな印象を与えます。

このフレーミング効果は、ダニエル・カーネマン氏とエイモス・トヴェルスキー氏により1981年に発表されました。
彼らは、フレーミング効果が人間の判断に影響することを示しました。

フレーミング効果は、マーケティングや広告、政策決定など、様々な場面で活用されています。
例えば、商品の売れ行きを大きく左右するため、マーケティングで活用されています。
また、政策の支持率を上げるために、政策の提示の仕方を工夫することもあります。

フレーミング効果を理解することで、情報の提示や受け取り方による影響を理解し、より適切な意思決定を行うことが可能になります。
また、他人からの情報を受け取る際にも、フレーミング効果による影響を認識することが重要です。
それにより、情報の背後にある意図を理解し、自身の判断をより客観的に行うことができます。

メンタル・アカウンティング

心の中で、お金の価値を計算する

メンタル・アカウンティング(Mental Accounting)は、「心の会計」とも呼ばれ、人がお金に関して意思決定する際に無意識に行う行動の一つです。

この概念は、人々がお金を全体として捉えるのではなく、無意識に用途ごとに区分けしてしまう傾向を指します。
例えば、親戚から出産祝いでもらった1万円と、パチンコで手に入れた1万円は、お金の価値としては同じ1万円ですが、人々はこれらを異なる「心の勘定科目」に分けて考え、それぞれに対する使い方が変わることがあります。

この結果、同じ金額でもその出所や用途によって、消費や投資の判断が変わることがあります。
これは合理的ではないかもしれませんが、人間の心理的な傾向として存在します。

メンタル・アカウンティングは、行動経済学の一部として研究されており、私たちの日常生活や経済活動に大きな影響を与えています。
この理解は、自分自身のお金に対する意識や行動を見直すための一助となるでしょう。
また、マーケティングや商品価格設定など、ビジネスの現場でも活用されています。

アンカリング効果

基準が判断に影響を及ぼす

アンカリング効果(Anchoring Effect)は、認知心理学や行動経済学などの領域で研究されている心理現象の一つです。
この効果は、人々が意思決定をする際に、最初に提示された情報や価値に影響を受け、その後の意思決定において影響を受けた数字に近い値を選びがちであるという現象を指します。

たとえば、2つの炊飯器があり、一つは通常価格が40,000円で、もう一つは30,000円だとします。
この場合、40,000円が「アンカー(基準)」となり、30,000円の炊飯器が安く感じられる可能性があります。

また、「1日コーヒー1杯分の値段で購入できます」という謳い文句を見たことはありませんか?
こうした広告を見ると「コーヒー1杯の値段(300円程度)なら安いな」と感じてしまうこともあるでしょう。
しかし、コーヒー1杯の料金を300円と仮定し、もしその支払いが1年間続くのであれば、109,500円(300円 × 365日)も必要になってしまいます。
コーヒー1杯という安い値段を先に提示することで、その買い物が安いという印象を与えています。

アンカリング効果は、商品の価格設定やマーケティング戦略、交渉など、様々な場面で利用されています。
この効果を理解することで、自分自身の意思決定や他人からの情報をより適切に評価することが可能になります。
また、ビジネスの現場でも、顧客の意思決定を理解し、効果的な戦略を立てるために活用されています。

代表性ヒューリスティック

私たちはイメージに囚われる

代表性ヒューリスティック(Representativeness heuristic)とは、ある事例の起こりやすさを自身のもつ典型的な知識に類似している程度に基づいて判断するという、私たちの考える負担を減らすための判断方略の1つです。

具体的には、未知のものを評価する場合に、その特徴が既知のカテゴリの典型的(代表的)な特徴に似ているほど、そのカテゴリに属すると判断する傾向を指します。

たとえば、ある人が親切な行動をしているのを見て、その人が親切な人だと判断するときにも代表性ヒューリスティックを利用しています。
この場合、私たちが持っている親切な人のイメージと、その人の行った行動が類似しているため、その人は親切な人である(確率が高い)と判断しています。

また、「今日雨が降りそうだな」といった判断を下すときにも、雨の日のイメージと、今日の空模様の類似性を評価して、これが高い場合に雨が降るだろうと判断しています。

しかし、このような判断は必ずしも正しいわけではありません。親切な行動をしていても、その人が大の悪人かもしれませんし、雨雲が見えていても急に晴れてくることもあります。
つまり、代表性ヒューリスティックは、多少のリスクを負いながらも、さまざまな判断を素早く行うための助けになっているのです。

この概念は、心理学者のエイモス・トヴェルスキーとダニエル・カーネマンによって提唱されました。
彼らは、代表性ヒューリスティックが人間の判断に影響を与えることを示しました。
この理解は、自分自身の意思決定や他人からの情報をより適切に評価することが可能になります。

おとり効果

選択肢を生み出すことで、市民権を得る

おとり効果(Decoy Effect)とは、消費者が商品やサービスを選択する際に、他の選択肢に比べて明らかに劣る選択肢(おとり)を提示することで、特定の選択肢を選ぶ傾向が強まるという心理現象です。

たとえば、ある商品Aと商品Bがあり、どちらを選ぶべきか消費者が迷っているとします。
この時、商品Aに比べて明らかに劣る商品C(おとり)を選択肢に加えると、消費者は商品Aを選ぶ傾向が強まるという現象がおとり効果です。

この効果は、消費者が選択肢を比較する際に、他の選択肢と比較して明らかに優れている選択肢を選びやすくするために利用されます。
マーケティングの分野では、この効果を利用して商品の価格設定やプロモーション戦略を立てることがあります。

具体的な例としては、レストランのメニューで見られます。
例えば、2,000円、3,000円、5,000円の3つのコースがある場合、消費者は中間の3,000円のコースを選びやすくなります。
これは、2,000円のコースよりも価値があり、5,000円のコースと比べて手頃な価格だと感じるからです。

また、行動経済学者ダン・アリエリー博士が行った実験でもおとり効果が確認されています。
彼はエコノミスト誌の購読を促す広告で3つの選択肢(オンライン版59ドル、雑誌版125ドル、オンライン版と雑誌版の両方125ドル)を提示しました。
結果、多くの人が「オンライン版と雑誌版の両方」を選びました。
これは、雑誌版だけの選択肢がおとりとなり、オンライン版と雑誌版の両方を選ぶ選択肢を引き立てたからです。

おとり効果を理解することで、消費者の選択行動をより深く理解し、効果的なマーケティング戦略を立てることが可能になります。

親近効果

終わりよければすべて良し

親近効果(Proximity Effect)とは、最後に得た情報によって全体の印象が左右される効果を指します。
これは、ある物事について多くの情報を得たとき、最後に得た情報によって判断が左右されやすくなるという現象です。

具体的には、複数の同じものを横に並べ、ひとつひとつを比べてもっともよいと思ったものを選んでもらうとします。
このとき、多くの人が、実際には違いがないのにも関わらず、最後のものをよかったと判断する傾向にあります。
これは人物であっても同様で、面接などでは、最後に質問に答える側の端にいる人が有利だとされています。

また、自己紹介など情報を多く並べる場面においては、いい情報を最後に残すことで印象付けが成功しやすくなります。
このように、「親近効果」は相手に対する印象付けに大きな影響を及ぼすのです。

親近効果は、アメリカの心理学者ノーマン・ヘンリー・アンダーソンが提唱した効果です。
アンダーソンの実験では、実際に起こった事件を題材に、模擬裁判が行われました。
この裁判では弁護側、検察側の証言が6つずつ用意され、その証言の順番によってどのように結論が出るかが観察されました。
結果、最後に証言をした側に有利な結論が下されたのです。

このことから、アンダーソンは「人はたくさんの情報を与えられたとき、最後に得た情報により影響されやすい傾向がある」と結論づけています。

親近効果を理解することで、情報の提示や受け取り方による影響を理解し、より適切な意思決定を行うことが可能になります。また、他人からの情報を受け取る際にも、親近効果による影響を認識することが重要です。それにより、情報の背後にある意図を理解し、自身の判断をより客観的に行うことができます。

親近効果と初頭効果の違いについて

親近効果と初頭効果は、どちらも情報の提示順序が人々の記憶や判断に影響を与えるという心理学の概念ですが、その影響の仕方が異なります。

初頭効果

最初に提示された情報が強く記憶に残り、全体の印象を大きく左右する現象を指します。
これは長期記憶と関連があり、長期間にわたり記憶に働きかけ、長期間相手の印象を決定します。
例えば、人物の性格を説明する際、最初に述べられた特性がその人物の全体像を形成する傾向があります。

親近効果(または新近効果)

最後に提示された情報が強く記憶に残り、その場での印象や判断を大きく左右する現象を指します。
これは短期記憶と関連があり、より最新の情報が短期間で記憶に残り、その場で印象を決定します。
例えば、プレゼンテーションや講演の際、最後に述べられたポイントが聴衆の記憶に強く残る傾向があります。

これらの効果を理解することで、情報の提示方法を工夫し、効果的なコミュニケーションを行うことが可能になります。

極端回避性

ついつい真ん中を選んでしまう

極端回避性(Extreme Avoidance)は、心理学および行動科学の用語で、個人があらゆるリスクや不安な状況を避けようとする傾向を指します。
これは、避けたいと感じる状況や刺激から身を遠ざけることに焦点を当てた行動パターンです。

極端回避性は、不安や恐怖心が過剰に強く、それらを回避することで安心感を得ようとする心理的な特徴を示します。
個人は、新しい経験や挑戦的な状況に対して恐怖や不安を感じ、それらを避けることで安全な領域にとどまろうとします。
このような行動パターンは、新たな可能性や成長の機会を逃す可能性があります。

極端回避性は、さまざまな要因によって引き起こされる可能性があります。
過去のトラウマや負の経験、恐怖の学習、過保護な環境などが影響を与えることがあります。
また、個人の性格や生まれつきの傾向も極端回避性に関与することがあります。

極端回避性は、一時的な心理的な安心感をもたらすかもしれませんが、長期的には成長や自己実現の妨げとなる可能性があります。
そのため、個人が自身の恐怖や不安に対峙し、リスクを冒す勇気を持つことが重要です。
適切なサポートや専門家の助けを受けながら、極端の回避性を克服し、より豊かな人生を追求することが目指されます。

極端回避性の具体例

極端回避性の具体例として、商品の価格設定がよく挙げられます。

例えば、ある家電量販店が掃除機を販売しているとします。
その掃除機は1万円、2万円、4万円の3つの価格帯で提供されています。

この場合、消費者は以下のような心理的なプロセスを経て商品を選びます:

  1. 「安い商品は壊れやすくて、高い商品は品質が良いだろう」と考える傾向にあります。
  2. しかし、4万円の掃除機は高すぎると感じ、「なんでこの商品だけこんなに高いのだろう」と疑問を持つかもしれません。
  3. 一方、1万円の掃除機は安すぎて品質が心配になります。
  4. その結果、消費者は中間の価格である2万円の掃除機を選ぶことが多くなります。

このように、消費者は極端な選択肢(この場合、1万円の掃除機と4万円の掃除機)を避け、中間の選択肢(2万円の掃除機)を選ぶ傾向があります。
これが極端回避性の一例です¹²。

また、この現象は「松竹梅の法則」や「ゴルディロックス効果」とも呼ばれ、行動経済学の中で「値段の違う3つを並べると真ん中が売れる法則」として説明されます。

保有効果

一度手に取った物は、手放したくなくなる

保有効果(Endowment Effect)とは、自分が所有したものに対して、所有していないもの以上の価値を見いだすという心理現象を指します。
具体的には、一度手に入れた物や権利に対し、その取引価格を非所有時以上に高く設定する傾向があるということです。

例えば、あなたが大切に保管しているお気に入りのアイテムがあるとします。
そのアイテムに対する愛着や価値感は、他人がそのアイテムを見たときに同じように感じると思ってしまうことがあります。
これが保有効果の一部とも言えます。

保有効果が起こる背後には、以下の心理的要素があります:

1. 損失回避の心理

人間は損失を避けるために、保有しているものを手放すことに抵抗感を覚えるのです。
これは、手放した結果、何らかの損失が生じる可能性に対する恐怖から来ます。

2. ザイオンス効果

自分が持っているモノに愛着を感じる¹²³。人は同じモノに何度も接することで、好感を抱く傾向があります。

3. フォールス・コンセンサス効果

自分が感じる価値は、他人も同じように感じるだろうと考える。
人は無意識のうちに、「他人も自分と同じように考えるはず」と思い込んでしまう傾向があります。

4. 現状維持バイアス

手に入れるよりも、失うかもしれないことを重要に感じる。
人間が安定した状態や既存の状況を維持しようとする心理的傾向です。

保有効果を理解することで、自分自身の意思決定や他人からの情報をより適切に評価することが可能になります。
また、マーケティングの分野では、この効果を利用して商品の価格設定やプロモーション戦略を立てることがあります。

プライミング効果

事前の情報が解釈を左右する

プライミング効果(Priming Effect)とは、事前の刺激によってその後の処理が促進(もしくは抑制される)効果**のことを指します。
これは、ある情報を見たり聞いたりした後、その情報が後続の思考や行動に影響を与える現象です。

具体的な例としては、以下のようなものがあります:

「リンゴ」「グレープフルーツ」「ブドウ」「サクランボ」「レモン」という単語を記憶した後に、「ミ_ン」のような穴埋めの単語を提示すると、多くの人が「ミカン」と答える傾向があります。
これは、先に提示されたフルーツの名前が後の単語の穴埋めに影響を与えている例です。

また、ある人物の描写を読んだ後に、その人物に関連する単語を提示すると、その単語が思い出しやすくなります。
これは、先に提示された人物の描写が後の単語の思い出しやすさに影響を与えている例です。

プライミング効果は、心理学やマーケティング、教育など、さまざまな分野で利用されています。
この効果を理解することで、情報の提示方法を工夫したり、他人からの情報をより適切に評価したりすることが可能になります。

ハロー効果

顕著な特徴だけで、物事を見極める

ハロー効果(Halo Effect)とは、ある対象を評価する際に、その一部の特徴的な印象に引きずられて、全体の評価をしてしまう心理現象を指します。
これは認知バイアスの一つで、「ハローエラー」とも呼ばれています。

具体的な例としては、以下のようなものがあります:

  • ある分野の専門家が専門外のことについても権威があると感じてしまうこと。
  • 外見の良い人が信頼できると感じてしまうこと。

ハロー効果は、心理学者エドワード・ソーンダイクが1920年に初めて用いた言葉で、ハローとは聖人の頭上に描かれる光輪のことを指します。

ハロー効果には、ポジティブ・ハロー効果とネガティブ・ハロー効果の2つの側面があります:

ポジティブ・ハロー効果

特定の能力の評価が高いと感じたとき、その他の能力もそれにつられて高く評価してしまう現象。

ネガティブ・ハロー効果

特定の能力の評価が低いと感じたとき、その他の能力もそれにつられて低く評価してしまう現象。

ハロー効果を理解することで、自分自身の意思決定や他人からの情報をより適切に評価することが可能になります。
また、マーケティングの分野では、この効果を利用して商品の価格設定やプロモーション戦略を立てることがあります。

上昇選好

だんだんよくなる方を好みます

上昇選好(Approach Preference)とは、個体が好む対象や状況を指す心理学の用語です。
上昇選好の場合、個体はある対象や状況に対して好意的な態度や関心を持ち、それに向かって行動する傾向があります。

上昇選好は、ポジティブな要素や報酬が関与している場合に特に顕著に現れます。
人々は、自分にとって好ましいと感じるものに対して、興味や関心を抱き、それを追求したり選択したりする傾向があります。
例えば、好きな食べ物を選ぶ、興味のある趣味や活動に参加する、自分にとって意義のある目標を追求するなどが上昇選好の一例です。

一方、下降選好(Avoidance Preference)は、個体が避けたり回避したりする傾向を指します。
下降選好の場合、個体はある対象や状況に対して不快感や回避の欲求を持ち、それから距離を置こうとします。

上昇選好と下降選好は、個体の行動選択や意思決定に大きな影響を与えます。
人々は自分自身の幸福や満足感を追求し、不快や困難な状況を避ける傾向があります。
これらの選好は、個体の価値観や目標、経験、文化的な要素などによっても影響を受けるため、人によって異なる傾向が見られることもあります。

上昇選好の具体例

上昇選好の具体例として、以下のようなシチュエーションが考えられます:

1. 商品の価格設定

ある家電量販店が掃除機を販売しているとします。
その掃除機は1万円、2万円、4万円の3つの価格帯で提供されています。

消費者は以下のような心理的なプロセスを経て商品を選びます:

  • 「安い商品は壊れやすくて、高い商品は品質が良いだろう」と考える傾向にあります¹。
  • しかし、4万円の掃除機は高すぎると感じ、「なんでこの商品だけこんなに高いのだろう」と疑問を持つかもしれません¹。
  • 一方、1万円の掃除機は安すぎて品質が心配になります¹。
  • その結果、消費者は中間の価格である2万円の掃除機を選ぶことが多くなります¹。これが上昇選好の一例です。

2. 順序効果

上昇選好は、選択肢が提示される順序や比較される順序に影響を受けることがあります。
例えば、最初に高い値が提示された後に低い値が提示されると、後の低い値がより低く感じられる可能性があります。

3. 相対的な比較

上昇選好は、選択肢を相対的に比較することによって生じます。
人々は、個別の選択肢の価値よりも、それらの選択肢の間の差異や相対的な増加に注目する傾向があります。

4. 喜びと欲望

上昇選好は、人々の喜びや欲望とも関連しています。
人々は、より高い価値や上昇した値に対して喜びや満足感を感じ、それを追求する欲望を持つ傾向があります。

これらの例からわかるように、上昇選好は私たちの日常生活の中で様々な形で現れます。

目標勾配仮説

ゴールに近づくほど、人間は「やる気」を起こす

目標勾配仮説(Goal Gradient Hypothesis)とは、「目標に近づけば近づくほど、その目標に対する価値が高まり、モチベーションがアップする心理現象」を指す概念です。

この仮説は、人が目標の達成が間近になると、その目標に対する価値が高まり、結果として行動の効果が促進されるというものです。
つまり、目標が近づくにつれて、モチベーションが高まり、行動が活発化するという現象を説明します。

具体的な例としては、以下のようなものがあります:

カフェのスタンプカード

「コーヒーを10杯飲むと1杯無料」というスタンプカードを配布したところ、10杯目に近づけば近づくほど、コーヒーを飲む頻度が上がった。
これは目標勾配仮説をビジネスに応用した例です。

長距離走のラストスパート

ゴールが近づくにつれて、ランナーはスピードを上げ、最後はダッシュのようなスピードでゴールする。
これは、目標が近づいてきたことでやる気が上がり、それまで以上の力を出せたものとして考えることができます。

目標勾配仮説を理解することで、自分自身の目標設定や達成に向けた行動、また他人の行動を理解する上で役立ちます。
また、ビジネスの現場では、この効果を利用して商品のプロモーション戦略を立てることもあります。

同調行動

集団の判断が、自分の判断をゆがめてしまう

同調行動とは、周囲の意見や行動に合わせて、自分も同じように行動をしてしまうことを指す心理学用語です。
これは、自分の意見や考え、好みが違っていたとしても、周りに合わせてしまう心理現象で、意識的に行うことも無意識のうちにやってしまうこともあります。

具体的な例としては、以下のようなものがあります:

  • 「みんな着ているから」「流行に乗り遅れてると思われたくないから」と、流行の洋服を購入してしまう。
  • 行列ができている飲食店を見つけると、食べてもいないのに「美味しいに違いない」と思って行列に並ぶ。
  • SNSで「いいね」がたくさんついていると、思わず自分も「いいね」を押す。
  • ネットショッピングでレビューや高評価がついたアイテムを選ぶ。
  • 観光地で道がわからなくなっても、とりあえず人の流れに身を任せてしまう。

同調行動が引き起こされる背景には、以下のような心理が働いています:

1. 孤立したくない

基本的に人間は群れの中で生きていく動物。学校や職場などで集団から外れてしまうことに対し、本能的に恐怖を抱いている。

2. 安全な道を選びたい

「周りの人と同じような行動をしていれば安心」というのは、ある意味人間にとっての危険回避能力。

3. 周囲に溶け込みたい、悪目立ちしたくない

人間は群れで生活する生き物なので、異質な存在は排除するという集団心理が働きます。

4. 相手の懐に入りたい

営業やマーケティングの世界では、相手を安心させるために同調行動を意識的に利用します。

5. 相手から好意を持ってもらいたい

自分が好きな人とは、誰だって両想いになりたいですよね。
しかし、いきなり距離を縮めると相手は警戒してしまいます。

同調行動を理解することで、自分自身の意思決定や他人からの情報をより適切に評価することが可能になります。
また、ビジネスの分野では、この効果を利用して商品の価格設定やプロモーション戦略を立てることがあります。

認知的不協和の解消

不満な気持ちのバランスを取る

認知的不協和とは、自分の思考や行動に矛盾があるときに生じる不快感やストレスのことを指します。
この不快感やストレスを軽減させるために、人々は認知や行動を変化させる傾向があります。

認知的不協和を解消する方法としては、以下の2つの主要な手法があります:

1. 価値の付与(甘いレモン)

新しい認知要素を付与することで、不協和の総量を低減させます。
例えば、「タバコを吸うことでストレスを解消できるし、気分転換になる」というように認知を変えることで、認知的不協和の解消を図ることができます。

2. 脱価値化(すっぱいブドウ)

自分が欲しかったものが手に入らなかった場合、そのものの価値を下げることで、自分の欲望と現実との間の不協和を解消します。
例えば、「あの人は浮気性に違いない」「そもそも、そんなに好きではなかったし」と思い込むことで、認知的不協和を解消することができます。

これらの手法は、認知的不協和を解消するために自分自身の認知や行動を調整する方法です。
しかし、これらの手法が必ずしも健全な結果をもたらすわけではないため、自己認識と自己調整の能力が重要となります。

損失回避の法則

目先の損を嫌う心理

損失回避の法則(Loss Aversion)とは、「人々は同じ額の利益を得るよりも、同じ額の損失を避けることを選ぶ傾向がある」という心理学の原則を指します。
これは、人々が損失に対して特に敏感で、損失を避けるために行動する傾向があることを示しています。

この法則は、行動経済学の重要な理論であるプロスペクト理論(Prospect Theory)の一部として提唱されました。
プロスペクト理論は、人々がリスクと報酬を評価する方法を説明するための理論で、損失回避の法則はその中心的な要素の一つです。

具体的な例としては、以下のようなものがあります:

投資の決定

投資家は、同じ額の利益を得る可能性よりも、同じ額の損失を避ける可能性の方が高い投資を選ぶ傾向があります。

商品の価格設定

消費者は、価格が上がるとその商品を購入する意欲が大幅に減少する一方、価格が下がっても同じ割合で購入意欲が増えないことが多いです。

損失回避の法則を理解することで、自分自身の意思決定や他人からの情報をより適切に評価することが可能になります。
また、ビジネスの分野では、この効果を利用して商品の価格設定やプロモーション戦略を立てることがあります。

参照点依存性

基準に引っ張られて、価値が変わる

参照点依存性(Reference Dependence)とは、人々が判断や評価を行う際に、参照点(基準値)と比較して情報を解釈し、意思決定をする傾向を指す心理学的な概念です。
この概念は、行動経済学や心理学の分野で広く研究されています。

具体的な例としては、以下のようなものがあります:

価格比較

商品を購入する際、同じ商品でも店舗によって価格が異なる場合、消費者は自分が見た最初の価格(参照点)と比較して、他の店舗の価格を評価します。

給与の評価

自分の給与を評価する際、自分の給与を他の同僚の給与(参照点)と比較して評価します。

参照点依存性は、経済学や心理学において、人々の意思決定が現在の状態や特定の基準(参照点)に依存することを示す概念です。
この理論は、人々が利益や損失を、絶対的な価値ではなく、特定の参照点に対して相対的に評価するというアイデアに基づいています。

参照点依存性を理解することで、自分自身の意思決定や他人からの情報をより適切に評価することが可能になります。
また、ビジネスの分野では、この効果を利用して商品の価格設定やプロモーション戦略を立てることがあります。

錯誤相関

関係のないこと同士に、関係があると思い込む

錯誤相関(Illusory Correlation)とは、存在しないはずの関連性を誤って認識してしまう現象を指す心理学的な概念です。
これは認知バイアスの一種で、人間の思考や判断が過誤を犯しやすい傾向にあることを示しています。

具体的な例としては、以下のようなものがあります:

ステレオタイプの形成

特定の属性の集団が特徴的な行動をとった場合、その事象の起こる頻度を過大評価してしまうものなどが挙げられます。
これは差別や偏見を生み出す要因の1つになるため注意が必要です¹²³。

ジンクスや迷信

「私が鉛筆を忘れてくると、必ずテストがある」というようなことである。
これは当人が非常に不運でない限り、錯誤相関と思われる(非常に不運である場合も、錯誤相関である)。

錯誤相関は、私たちがある出来事を過大評価して他の出来事を無視するときに起こります。
たとえばパリを訪れたとして、地下鉄に乗ろうとしたとき、誰かに横入りされたとしましょう。
その後あるレストランに行くと思いのほかおいしくなく、ウェイトレスも期待が悪そうに見えます。
ホテルスタッフも印象が悪く失礼な態度を取られました。
あなたはそれ以降「パリ」という言葉を聞くたびに、こうした体験をただ一度の体験を思い出し「パリの人は感じが悪い人が多い」といったネガティブな印象として結論づけるのです。

錯誤相関を理解することで、自分自身の意思決定や他人からの情報をより適切に評価することが可能になります。
また、ビジネスの分野では、この効果を利用して商品の価格設定やプロモーション戦略を立てることがあります。

選考の逆転

「タダ」が判断を狂わせる

選好の逆転とは、状況によって、人の好みや優先順位が変わってしまう現象を指します。
この現象は、認知心理学者のポール・スロヴィッチとサラ・リヒテンシュタインによる、カジノでの実験で明らかにされました。

具体的な例としては、以下のようなものがあります:

賞金の選択

あるゲームで、以下の2つの選択肢が提示されたとします。

  • A賞金は低いがもらえる確率は高い(7000円が80%)
  • B賞金は比較的高いがもらえる確率は低い(7万円が10%)

この場合、単純に「どちらを選ぶか」と聞かれた場合は、賞金がもらえる確率の高いAを選びますが、「どちらの賞金の方が高そうか」と聞かれると期待値的にBを高く見積もる傾向があります。

選好の逆転は、人々の選好がどのように変化するのかを理解し、それに応じた戦略を立てることが可能になります。
また、ビジネスの分野では、この効果を利用して商品の価格設定やプロモーション戦略を立てることがあります。

プラセボ効果

信じ込むことで、感覚さえも変えてしまう

プラセボ効果(Placebo effect)とは、実際には効果のない偽物の薬を飲んだにも関わらず、その薬によって何らかの症状の改善がみられる現象を指します。
これは心理学の現象の中でも非常に有名なもので、それが生じる場面は非常に限定されています。

具体的な例としては、以下のようなものがあります:

ただのキャンディを酔い止めと思い込ませて舐めさせると酔いがおさまる。

新薬などの臨床試験の現場

新薬や治療法の効果を検討するために二重盲検法による評価が行われる。
その際、患者は薬剤を投与されるグループと偽薬を投与されるグループにランダムに振り分けられる。

プラセボ効果が存在する可能性は広く知られています。
特に痛みや下痢、不眠などの症状に対しては、偽薬にもかなりの効果があるとも言われており、治療法のない患者や、副作用などの問題のある患者に対して安息をもたらすために、本人や家族の同意を前提として、時に処方されることがあります。

しかし、一方で、偽薬に一定の効果があるかどうかについては、疑問視する意見も常にあります。

双曲割引

自分との距離が遠ければ、差を感じない

双曲割引(Hyperbolic Discounting)とは、「遠い将来なら待てるが、近い将来ならば待てない」という、人間の非合理的な行動を説明する概念**です。
これは行動経済学の一部で、人間が時間と報酬の評価において特定の傾向を持つことを示しています。

具体的には、人間は「今」という時間を強く重視する傾向があります。
そのため、同じ金額でも「今もらえる報酬」の価値は「将来もらえる報酬」の価値よりも高く感じます。
この価値の減り方が反比例(双曲)のグラフになるため、この現象は「双曲割引」と呼ばれています。

例えば、ダイエットや貯金などの長期的な目標を立てる場合、その目標を達成するためには一時的な快楽を我慢する必要があります。
しかし、「今」の快楽(例えば、美味しいケーキを食べることや、欲しいものをすぐに買うこと)を我慢することは難しく、結果として目先の誘惑に負けてしまうことが多いです。
これは双曲割引の一例と言えます。

双曲割引を理解することで、自分自身の意思決定や他人からの情報をより適切に評価することが可能になります。
また、ビジネスの分野では、この効果を利用して商品の価格設定やプロモーション戦略を立てることがあります。

社会性と道徳性

罰金による罪の意識の軽減

社会性

他者との関わりや共同体の中での行動を指します。
行動経済学では、人間が他者との関係性を重視し、自己利益だけでなく他者の利益も考慮に入れることを示しています。
これは、例えば、公正な取引や共同作業、信頼関係の形成など、社会的な相互作用の中で見られます。

道徳性

個々の行動が社会的な価値観や規範に基づいているかどうかを指します。
道徳的な行動は、他者の利益を尊重し、公正で公平な行動をとることを意味します。
これは、例えば、不正行為を避ける、約束を守る、他者を尊重するといった行動に現れます。

行動経済学では、これらの社会性と道徳性が、個々の経済行動や市場全体の動きにどのように影響を与えるかを研究しています。
これにより、経済活動が単なる利益追求だけでなく、社会的な価値観や道徳規範に基づいて行われることを理解することができます。

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