はじめに
生徒との関係性を深め、教員として本音を引き出せる環境を整えることは、指導の中で重要な課題です。
しかし、教員の言葉やアプローチが逆に生徒の本音を引き出す障害となることもあります。
特に悩みや不安を抱える生徒に対してアドバイスを押し付けることで、生徒が自らの気持ちを隠してしまう恐れがあります。
この記事では、生徒の本音を引き出すための具体的な技術や配慮がどのように役立つかについて解説します。
どんなときに本音を引き出すべきか、またあえて引き出さない選択肢も視野に入れ、生徒と深い信頼関係を築くための技術を紹介します。
読み終える頃には、実際の教育現場で使えるコミュニケーションのスキルを得て、さらに一歩生徒の気持ちに寄り添える教員になるためのヒントを得ることができるでしょう。
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生徒の本音を引き出す意味と価値
生徒の本音を引き出すことは、教員にとっても生徒にとっても非常に重要な意味を持ちます。
本音が分かることで、教員は生徒の抱える悩みや不安、将来の希望を正確に把握し、的確なサポートが可能になります。
ただし、指導のアプローチによっては、かえって生徒が本音を言いづらくなるケースもあります。
例えば、生徒が教員に悩みを相談したいと考えているときに、教員がすぐに解決策を与えてしまうと、生徒が「どうせ話しても分かってもらえない」と感じてしまう場合があります。
本音を引き出す選択肢
- 引き出す:積極的に生徒の話を引き出すことが適切な場面もあります。
特に、深刻な悩みを抱えているときは本音を知ることで対応がスムーズになるからです。 - 引き出せない:無理に引き出そうとせず、生徒が自分から話したいと思うまで待つことも大切です。
- あえて引き出さない:本音を引き出すことが常に必要とは限りません。
生徒が負担に感じるときは、あえて話を聞かず距離を保つことも尊重が必要です。 - あえて引き出す:逆に、あえて突っ込んで聞くことで生徒が心を開くこともあります。
関係性に応じた対応が求められます。
生徒の本音を引き出すためには、生徒の喜びや悩みを共有し、信頼関係を構築することが重要です。
生徒の本音を引き出すための技術
アンケートでは本音を引き出しにくい理由
アンケートは、多くの教員が生徒の意見を集めるための手法として活用していますが、実際には効果が限定的です。
生徒は「変なことを書くと教員に呼び出されるかもしれない」という不安から、表面上の無難な回答を選ぶことが多いです。
特に忙しい生徒にとっては、アンケートに本音を書くための余裕がなく、形だけの回答に終わってしまうことがほとんどです。そのため、生徒の本音を引き出すには、別の方法が必要です。
学級担任の心がけ
(1) 自信をもった表情で生徒の前に立つ
生徒は、教員が自信を持って話すかどうかを敏感に感じ取ります。
自信のない態度は、生徒に「この教員には相談しづらい」という印象を与えてしまうため、まずは教員自身が自信を持って向き合う姿勢を示しましょう。
(2) 様々な視点で生徒を観察する
個々の生徒には異なる背景や状況があり、一人ひとりの観察が重要です。
多角的な視点で生徒を理解することで、より的確なコミュニケーションがとれます。
(3) 未来を示し、見通しを持たせる
生徒に未来の目標や進むべき道を明示することで、生徒は安心して相談ができる環境が生まれます。
(4) 認めることを重視する
叱る、ほめるではなく、生徒の存在や努力を「認める」ことを意識します。
生徒が安心して話しやすい環境を作る上で、最も重要な要素の一つです。
(5) 落ち着いて話す
教員が感情的になると、生徒も本音を引き出すどころか逆に引いてしまうことが多いです。
落ち着いて対話をすることで、生徒が話しやすい空気を作ります。
(6) 完璧を目指さない
教員自身が「完璧な人間ではない」ということを認める姿勢も重要です。
教員が完璧を目指す姿勢は生徒にプレッシャーを与えかねないため、ありのままの自分で接することが大切です。
具体的な方法
ミラーリング効果で心理的距離を縮める
ミラーリング効果とは、相手の動作や表情、話し方などに自然に合わせることで、心理的な距離を縮め、信頼関係を構築する技術です。
この手法は、カウンセリングや接客業、ビジネスシーンでも幅広く活用されていますが、教育現場でも非常に効果的です。
生徒と教員が自然な形でお互いを理解し合うための方法として、ミラーリング効果を活用することで、生徒が安心して自分の本音を話しやすくなる環境が整います。
ミラーリングの具体的な実践方法
- 姿勢を合わせる
生徒と同じ目線になることは、親近感を生むために効果的です。
座っている生徒と話す際には教員も腰を落とし、生徒と視線を同じ高さにするだけで、生徒は「自分に向き合ってくれている」と感じます。
また、生徒が体を少し傾けている場合には教員もさりげなく同じように姿勢を取ることで、無意識のうちに親近感が生まれます。 - 表情を合わせる
生徒が嬉しそうに話しているときには笑顔を見せたり、悲しそうなときには同情的な表情をすることで、生徒は自分の気持ちを教員が理解してくれていると感じます。
表情を合わせることは「共感している」というメッセージを視覚的に伝える効果があり、生徒の心を開きやすくします。 - 会話のテンポやトーンを合わせる
生徒がゆっくりと話しているときは教員もゆっくりとしたペースで話し、テンポを合わせることで、リズムが合いやすくなり、会話に自然な一体感が生まれます。
また、生徒が緊張して声が小さくなっているときには、教員もやや控えめなトーンで話すことで、生徒に安心感を与えられます。
生徒に安心感を与えるために話の着地点を示す
生徒が教員に相談や話をするとき、「どこまで話していいのか」「この話がどう進むのか」が分からないと、内心不安に感じるものです。
特に感情的な話題や、問題を抱えている話では、生徒は防御的になりやすく、本音を話しにくくなります。
こうした場面で教員が話の着地点や全体の進行方針を事前に提示することで、生徒は自分の発言の行き先を安心して予測でき、本音を引き出しやすくなります。
着地点を示す具体的な方法
- 把握している情報を先に伝える
教員が既に知っていることを先に話すと、生徒は「余計なことを言わずに済む」という安心感を得られます。 - これからの展開を伝える
話がどう進むのかを教員から簡潔に伝えることで、生徒は「何をどこまで話すべきか」が見えてきます。「今日はこういう話をして、最後にこうまとめる予定です」と伝えると、生徒は話の全体像を掴みやすく、リラックスして話しやすくなります。
上記のようなことを意識することで、いわゆる「いった・言わない」の不毛なやり取りが減ります。
何をどこまで知っているか、また今後どうするかが大切であることを強調し、未来に焦点を合わせた会話を意識することが重要です。
個々の生徒理解を深める
生徒全体を「生徒」という集団として一括りに捉えるのではなく、「一人ひとりの個性や特性を理解する」視点が大切です。「その子理解」とも言えるこの姿勢は、教師がそれぞれの生徒に寄り添うための基本です。全員に同じ対応をするのではなく、それぞれの生徒の特徴や抱えている事情に合わせた指導を行うことが、より効果的な本音の引き出しに繋がります。
生徒理解のためのポイント
- 生徒の背景を把握する
生徒が家庭での環境や友人関係でどのような状況にあるかを理解しておくことは、生徒が悩みを話しやすくするために役立ちます。 - 個々の特性を意識する
積極的な生徒もいれば、引っ込み思案な生徒もいます。
それぞれに合ったアプローチを取るために、観察や対話を重ねて生徒の特性を捉えるよう心がけましょう。 - 生徒の発言や態度に対して偏見を持たない
何気ない発言や態度に対して決めつけをしない姿勢が、生徒の信頼を得る一歩です。
偏見を排除することで、フラットな対話が実現します。
チャットでのコミュニケーションを活用する
現代の生徒の中には、対面で話すのが苦手な生徒や、発言すると周囲の目が気になる生徒がいます。
こうした生徒にとって、ICTを活用したチャットでのやり取りは、自分の意見や気持ちを表現するための有効な手段となります。
チャットのメリットは、リアルタイムのプレッシャーが少なく、落ち着いた状態で自分の考えを整理して伝えられる点です。
チャットの活用法
- 授業やアンケートに導入する
クラス全体に向けた質問をチャットで行い、全員が平等に発言できる場を作ることで、生徒が気軽に本音を伝えやすくなります。 - 個別の相談にも使用する
生徒が「会話が苦手」と感じている場合、個別にチャットで対応することで、対面よりも本音が引き出しやすくなる場合があります。 - 発言しやすい雰囲気を作る
誤字脱字や表現の硬さにこだわらず、生徒が自由に書ける雰囲気を作ることで、自己表現のハードルを下げましょう。
三者面談の事前準備で本音を引き出す
三者面談の場面では、生徒が家庭での姿と学校での姿の両方を持つため、それぞれの場面に応じた準備が必要です。
特に家庭での話し合いが不十分だと、生徒が自分の本音を伝えられないことが多くなります。
三者面談の目的は、学校側の意図と家庭の意向をすり合わせ、生徒の成長を支援することです。
この目的を達成するためには、面談前の準備が効果的です。
三者面談の準備法
- 話す内容を事前に明確にする
面談で何を話すのか、目的や内容を事前に明確にし、保護者と生徒の間で話し合ってもらいます。 - 家庭で紙にまとめる
面談で話す内容や意見を家庭で紙に書いておくことで、当日は緊張せずスムーズに進行します。
こうすることで、生徒は「何を話すか」がはっきりし、本音を話しやすい環境が整います。
話題を決める「アドじゃん」を活用する
「アドじゃん」は、生徒が主体的に話す内容を選べる方法です。
教員が事前に10個ほどの話題を用意し、それを「じゃんけん」で決めてからフリートークに入ることで、生徒がリラックスして会話に参加しやすくなります。
話題があらかじめ決まっているため、生徒も話しやすく、会話が自然に広がります。
アドじゃんの具体的な方法
- 話題をリスト化する
興味を引くテーマや生徒が考えやすい内容をリストにしておきます。生徒の好きな教科や趣味、今の悩みなど幅広く考慮した話題を用意するとよいでしょう。 - じゃんけんでテーマを決める
生徒が主体的にテーマを決めることで「話したい」という気持ちが生まれ、リラックスした雰囲気が作られます。 - フリートークに導入する
テーマが決まったら、教員は生徒の意見を引き出す形で会話を進めます。特に結論を急がず、生徒の考えをじっくり聞くことで、本音を引き出しやすくなります。
おわりに
生徒の本音を引き出すための技術やアプローチは、信頼関係の構築に欠かせません。
しかし本音を引き出すことが全てではなく、時にはあえて距離をとることも必要です。
この記事で紹介した方法やポイントを実践し、生徒一人ひとりに寄り添いながら、生徒が安心して自分を表現できる環境作りを目指しましょう。